4月以降に責任者となる彼の研修も始まり、いよいよ業務の引き継ぎの為の慌ただしさが始まろうとしている。と同時に、十数年世話になったこの職場を自分が去る日も近づいている。
ここ数年で俄には信じ難いくらい寒々しい職場に様変わってしまった故、ここを去る事に関しては既に微塵も未練はない。まぁ卑劣な連中、特にあの女に対しては、色々思う処がないわけでもないのだけれど、取りあえず後2ヶ月で縁が切れるのだ。今は当たらず障らず、業務で必要な最小限以外は出来るだけ関わらぬようにして、淡々と、そして冷ややかに接していればいい。
確かに4月以降、新たな職場での新たな業務、そして新たな人間関係……と思いを馳せると不安が募るのも事実だけれど、しかし今まで長年続いて来たしがらみが一旦ちゃらになる感覚は結構いいものだ。後2ヶ月でお役目御免……と思うと、今更どうでもいいという思いが先に立ち、妙に気楽な気持ちで日々が過ごせもする。
三つ子の魂百までとはよく言ったもので、物事の始まりより終わりの方を好む子供の頃からの資質は、やっぱり生涯に渡って変わらぬらしい。
だけど自分の死期を間近と悟った時に、「どうせ、もうすぐ死ぬのだ…」という開き直りと共に人生最大の清々した気分を味わえるかと言えば、その辺ちょっと微妙な気はするけれどね。
何れにしても今は、もうすぐ全部ちゃらになる……という束の間味わえる清々した気分にどっぷり浸かっていたい。終わってしまえば、すぐにまた始まってしまうのだから……
そう、春の訪れと同時にね。
願わくは今年の暮れ頃には、「今年の春を別の場所で迎える事が出来てよかった……」と温かい気持ちでそう思えていたらよいのだが……。