鬱が極まる故の長風呂にとどのつまりはのぼせてしまい
ふらふらと浴室を出て、
身体も拭かずに素っ裸でフローリングの部屋に横たわる。
しばらくは死んだように身じろぎもせず、
しかし思春期の頃から治らぬ癖でまた呟き始める独り言が
気づけばまた懐かしい歌に様変わり、
ぶつぶつといつの間にか口遊んでいるメロディー。
おや? この歌は誰の歌だったっけ?
そう、この歌は既に世間から忘れ去られたあの人の歌で
彼の活動期間は僕の少年時代と重なるわずか数年。
その活動期間中も、
それほど人気があったわけでもないロック歌手の
どうしようもない塵(ごみ)の歌。
カラオケのレパートリーにも登録されていないこの歌を口遊んでいるのは
今宵きっと僕だけなのだろう、
この世に恐らく僕だけなのだろう。
忘れ去られる以前の問題で、
そもそも生まれてこの方いまの今まで
誰からも顧みられることのなかった男が、
一瞬の輝きを放った後すぐにメッキが剥がれて
瞬く間もなく忘れ去られた歌手の歌しんみり口遊む今宵この瞬間を
知る人は誰ひとりいない。
もちろん僕がこの世から消え去れば
この夜この場所のさみしさはあたかも存在しなかったかのように
果てもなき時間と空間のなかに藻屑と消え失せてしまうのだ、
微塵もなくね。
生を燃焼させるために夏空に羽ばたくことを夢に見て
あっけなく羽根ちぎれ夢やぶれた貴方に僕は敢えて言おう、
ささやかながらも大切な夢をありがとう……と。