先日、財界にいがたという新潟県の経済団体が発刊している月刊誌「財界にいがた」の誌面に羽越新幹線の構想に絡んだ記事が掲載された。

 

(雑誌の全掲載は著作権法に抵触する可能性があるため、財界にいがたHP(リンク)とHPのスクショで代替させていただきます。)
 
私自身、国土の均衡ある成長のためにも、この羽越新幹線の構想自体には大賛成だが、いま新潟県関係者が主張している、上越妙高駅-長岡駅-新潟駅のルートには否定的であるということをはっきり示しておきたい。

 

その理由は、1)以前にもブログに載せたのだが、将来、秋田や北海道新幹線に乗入れることを前提になることを仮定したとき、異なる座席数や位置、或いは車両数の列車が混在する可能性が否定できず、突然の車両故障といった不測の事態や停電、地震や台風といった自然災害、或いは数年前に発生した東海道新幹線のぞみの車内での放火や無差別殺傷等の予期せぬ事件が起こったとき(勿論、このような悲惨な事件は二度と絶対に繰り返してはなりませんが…)、当然のことながらダイヤが大きく乱れることは誰でも想像に難くないはずだろう。

 

北陸新幹線は、将来大阪まで延伸したとき、新大阪駅には地下に2面4線のホームが設けられる予定で、山陽新幹線や鹿児島や長崎への新幹線への乗入れを前提とする構造になるとの方針が、政府与党のプロジェクトチームで確認された。
当然のことながら、東海道新幹線の多くの列車が山陽新幹線まで直通運転している。リニア中央新幹線開業以降は、山陽新幹線との直通列車やのぞみが多少減便される予定であるそうだが、それでも東海道新幹線との直通列車を多少なりとも残したいことや現行の運行頻度を維持する旨が、JR東海の社長が既に発言している。

 

現在、四国でも瀬戸大橋を利用して岡山と結ぶ新幹線を構想し実現に向けた活動が行われている。もし、将来四国にも新幹線が開通して、新大阪或いはその先へと乗入れが実現したとき、先述した重大アクシデント等が起こったとしたら、コンピュータシステムの処理能力が対応しきれず、北海道から鹿児島までの日本中の全新幹線のダイヤが大混乱を起こす可能性があるためだ。一旦そうなれば、新潟県どころかこの国全体の経済的損失が膨大なことになる可能性もある。

 

過去には、2011年1月8日の朝、年始のUターンラッシュのいう時期に、東北新幹線福島駅と新白河駅での分岐器故障を発端にコンピュータ上でのダイヤの組み直しのデータ量が膨大となり、システムがダウンして東北・山形・秋田・(当時の)長野・上越の全新幹線のダイヤが終日乱れた状態になり、JR東日本管内の多くの新幹線駅が大混乱するといったことも発生している。

 

JR東日本管内の新幹線は在来線に直通するミニ新幹線の存在や大宮駅や高崎駅で分岐しているなど東海道・山陽新幹線に比べて複雑怪奇で様々な条件があるなど制約が多い中、東京駅を繁忙期で4分間隔という高頻度で運行されている。

 

 これだけでなく、以前、三重県が名古屋駅から近鉄線経由のミニ新幹線導入を、JR東海に要望していた時期があったが、上記のリスクがあることや、車両の座席数や位置の異なる車両になることに繋がり、定時性の確保等様々な課題が浮き彫りとなり、JR東海及び近畿日本鉄道の2社はミニ新幹線について否定的な見解を示した過去もある。

 

そのような中で、高速通過列車が存在する上越妙高駅や糸魚川駅に乗入れれば、そのリスクは格段に高くなるだろう。更に、上越妙高駅は高崎駅や岐阜羽島駅(いずれも2面6線)のようにゆとりのある形状となっていないことも少々気になる。

 

それから、上越妙高駅だけでなく、全営業列車が停まる富山駅でも車両の留置や管理をするための「車両基地」がないため、石川県白山市の車両基地まで回送しなければならない上、上越妙高駅の金沢寄りと、富山駅の東京寄りの分岐器設備が片側の渡り線のみのため、折り返し運転をする上で大きな制約なっている(動画が再生します。長野出発後、上越妙高駅=17分48秒頃/富山駅=46分20秒頃)ため、長距離に亘ってそのリスクを引きずる可能性がある。そのようなことを防ぐためにも、東海道新幹線と同じように極力単独かつ単一の路線とし、重大なリスクを回避する事が出来る仕様にしておく必要があると考える。

 

その条件が適用できる(安全な)経路が、長野駅-長岡駅-新潟駅を結ぶルートである。長野駅の北側8キロの地点に大規模な車両基地があり、JR東日本・西日本の乗務員の拠点であるため、回送列車や要人等の乗るお召し列車を含め全ての列車が停車する。長野駅を起終点駅にした場合、長岡-新潟間以外は単独の路線となるため、ダイヤが乱れた場合でも速やかに復旧出来る可能性が非常に高いと考える。

 

2)1の最後でも述べたが、北陸新幹線の乗務員の交代は上越妙高ではなく2駅東京寄りの長野駅で行われている。上越妙高に乗入れた場合、必然的に乗務員の交代が必要となる。先述したことでもあるが、上越妙高駅には、車両基地がないため車両の運用面等を考慮したとき、長野と上越妙高でダブりが生じ、非常に効率の悪い運用になる。ましてや、いまのご時世、どこの現場も「人手不足」の問題や、長時間労働など様々な問題が課題となっており、「働き方改革」「働かせ方改革」「生産性の向上」といったことが急速に求められるようになってきている。そのような中でも、どんなに高度な自動運転が可能な時代になったとはいえ、高速走行をする新幹線に於いては安全を確保する必要がある。国際的にも新幹線が快適で安全な乗り物として長きに亘って信頼を得てきた歴史がある。安全を確保するためには、最終的には人間が判断する必要があると私は考えるからだ。

 

3)上越妙高-長岡-新潟経由で整備されれば、関西へのアクセスも改善し、県土の分断も回避出来るのではないかという声が上がっている。確かに便利にはなるだろう。でもこのルートが果たして新潟県民にとっても日本国民全体にとってもメリットがあるかと言われれば、私は疑問を感じざるを得ない。
現在、新潟県の政財界関係者が主張するルートは、関西方面へは乗換なしで移動できるというメリットがあるが、名古屋を中心とした東海4県への移動は全くといってもいいほど考慮されていないからだ。

 

北陸新幹線が、新大阪まで延伸した場合、最速タイプのかがやきは福井-京都間はノンストップとなる可能性がある。従って、停車駅の多いはくたかで敦賀まで移動し、そこから特急に乗換える必要がでてくる可能性も否定できない。

 

現在、北陸-米原-名古屋を結ぶ特急「しらさぎ」は、15.5往復(名古屋方面16本、北陸方面15本)しているが、このうちの半数弱の列車は、米原止まりとなっており名古屋へ行くには更に乗換が必須となる。しかも、現在は、米原-敦賀間は一部を除き基本的に長浜駅を通過するが、今後の状況次第では、長浜駅に停車するしらさぎが増えたり、米原-敦賀間のシャトル運転が基本となる可能性だって否定できない。

 

富山駅で高山線経由で…というルートも考えられるが、富山駅-名古屋駅を直通する特急「ワイドビューひだ」は、1日4往復と極めて少ない上、高山線は地方交通線のため岐阜駅-富山駅間の全線で単線となっており、途中幾つかの駅で、行き違いや時間調整のために長時間停車していること、岐阜駅でのスイッチバックなど、最も最速でも3時間50分、平均所要時間は4時間を超える。

 

以前、福井県知事が敦賀-米原を経由し名古屋まで結ぶ「北陸中京新幹線」に触れた事もあったが、実現できない可能性の方が限りなく高いと私は分析する。先程も触れたが、異なる仕様や規格、異なる座席数、異なる車両の数、このどれか一つでも当てはまったら、JR東海は「うん」と首を縦に振る事は100%先ずないと考える。JR西日本が高速化を理由に開発した500系新幹線を先述した理由で13年という短い期間でJR東海のエリアから撤退させた経緯があるからだ。米原駅の新幹線区画はJR東海に所有権があるため、JR東海が基準とする条件が全てクリア出来なければ門前払いされる。特に、グランクラスなど座席数が少なくなるような車両は御法度となるだろう。

 

そもそも論の話、新潟地域から名古屋へ行くには、航空機を使うか、東京駅で新幹線を乗り継ぐか、或いは長野駅を経由して篠ノ井・中央西線経由の特急「しなの」を使うのが一般的なルートであると考える。新潟駅-名古屋駅間の夜行バスも上信越道-中央道を経由するルートであるのが理由の一つだからだ。

 

「しらさぎ」や、富山駅で特急に乗り継ぐルートは、コスパ的に最も良くないパターンという印象を感じざるを得ない。取り分け、特急「ひだ」は富山-高山間は3両編成のためキャパシティー的にも非常に小さい。「しらさぎ」利用の場合は6両固定編成で運用されているため、キャパ的には富山-高山線経由よりも優れるものの、所要時間や運賃が高くなる可能性があるため微妙なところと考える。

 

航空機を使う場合も、機体が小型のプロペラ機で座席数が74席と少ない。また、ANAが運航しているため、価格的にもそれなりの出費が伴う。しかも、セントレアと、小牧にそれぞれ2往復ずつのため名古屋の中心部に行くには、名鉄に乗るか、名古屋駅直結バスに乗る必要があるため、飛行時間は1時間でも、チェックイン、チェックアウトで25分ずつ、電車で…と考えれば、最低でも2時間半以上は掛かる計算になる。座席数の面でも本数の面でもキャパシティーが非常に小さく、所要時間も予想以上に掛かり、乗換の回数が最も多いパターンになるため負担が大きいことを考えればコスパはやや良いとは言えない。
東京駅で、新幹線を乗り継ぐ場合、最も乗換回数の少ないパターンであるため、最も負担の少ないパターンではあるが、かなり大回りするルートのため、コスパ的には航空機を利用する場合に比べれば小さいものの、決して安い運賃だとは言えない。

 

一方、長野-名古屋を直通する特急「しなの」は、1日13往復と、「しらさぎ」の総本数と比較するとやや少ないが、直通便に限定すれば、「しなの」の本数の方が多い。更に、時間帯によって最大で12両編成で運行しているため、キャパシティーにもゆとりがあり、着席チャンスも増えるのではないか。
 
所要時間が最速で2時間50分、平均所要時間が3時間という部分がやや気には掛かるが、新たな需要が開拓され、利用者が増えれば、本格的に高速化や篠ノ井線の松本-篠ノ井間の複線化にも繋がるであろう。現行の最高時速120km/hから冠着-明科間や塩尻-多治見間が160km/h、その他の長野県内の区間が140km/hまで高速化されれば、2時間半を切る計算となる。大幅な改善の余地と可能性のある路線であると言えよう。
 
羽越新幹線が、長野-長岡-新潟というルートとなった場合、運賃も航空機を利用した場合や、特急「ひだ」「しらさぎ」を利用した場合と比較してコストが抑えられ、長野から最速2時間50分であるため、コストパフォーマンスが非常に良いパターンと言えるのではないかと考える。

 

  • 新潟~長野~名古屋経由の夜行列車を提案する。
  • 名古屋市へのアクセス向上のため、北陸新幹線飯山駅停車便増加、新潟~飯山の特急等設定を望む。
といった、名古屋へのアクセス改善を求める意見も少数ではあるが寄せられている。

 

確かに、関西方面へは長野駅での乗換が必要になることはデメリットではあるが、同一ホームでの対面乗換ができれば、負担を小さく出来ると考えられる上、かがやきやはくたかなど用途に応じて乗れる列車が選択できる、要するに「選択肢が多い」ということを考えれば、乗換えによる負担よりもメリットの方が大きいと私だったら考える。
単独の路線であれば増発することも出来るため、北陸新幹線と羽越新幹線の双方が増発できれば、相乗効果となって最大限のパフォーマンスを発揮できるのではないだろうか。

 

それに、新潟駅-長岡駅-上越妙高駅という形で羽越新幹線ができたとしても、現状、新潟駅-長岡駅の区間でさえ平均で22分、最速でも19分掛かる。上越妙高駅へはさらに10-15分程度掛かると仮定すると、最速でも29-37分前後かかる計算となる。上越妙高駅に限定すれば、対富山方面(40分)と比較すればやや優位であるが、対長野方面(19分(最速)平均21分)と比較した場合、不利な状況が劇的に改善できる可能性は低いと考えられる。
糸魚川駅では、対富山駅(27分)、対長野駅(35分)と比較して、対新潟駅では最速43分、平均の所要時間が48分掛かる計算となるため、対富山市や対長野市と比較してかなり不利な状況と考える。
さらに、上越妙高を境界に運行会社が異なるため、糸魚川-新潟駅間の新幹線定期は原則として発券できないため、糸魚川⇔上越妙高間と、上越妙高⇔新潟間のそれぞれ2種類を作る必要があるため、割高になり効果は限定的になると考えられる。

 

新潟-上越市間、取り分け、柏崎駅-直江津駅間は、長大トンネルが連続する区間であるので、この区間だけでもほくほく線のように160km/hで運行すれば、相当改善できるのではないでしょうか?

 

一旦造ったインフラは、成功しても失敗しても何十年という長期間に亘って使うことになります。
即ち、やり直しというのが通用しないと言うことです。取り分け、失敗したら取り返しの付かないことになりかねないということです。
だからこそ、将来世代に禍根やツケを残さないように注意深く進めないといけないのではないかと考えますが読者の皆さんは如何でしょうか。