千曲市に『新幹線新駅』は必要ではないだろうか。

 

何を今更…。
一昨年、誘致活動を中断したばかりじゃないか!
長野駅-千曲市間の13kmの駅間距離は短いのではないか…
ユーザー層がかなり限定されるのでは…

利便だけを追求する街に魅力を感じない。
 

そう感じる方もいらっしゃるし、なるほどな、確かになと、新駅に反対を主張する方の考えは重々理解できる。
このチラシは新駅問題から千曲市政を考える市民の会(現在は、千曲市政を考える市民の会(会長:宇田川弘子氏))が周辺自治体の市会議員へのアンケートに基づき作成したものである。

 

【長野市】
・新駅問題は千曲市の問題。
・新駅が長野県の交通・交流の拠点になるとは思えない。
・実現性、現実性がない(市幹部の非公式の見解)
【松本市】
・新駅は千曲市の問題。
・新駅に期待していない。利用者も殆どいない(のではないか)。
・新駅が県の交通・交流の拠点になりにくいのではないか。
【安曇野市】
・新駅は千曲市の問題。
・市民は期待していない。利用を考えている市民はいないのではないか。
・新駅が県の交通・交流の拠点になるかどうかはわからない。
【大町市】
・新駅は千曲市の問題。
・新駅に期待していない。利用者も殆どいない(のではないか)。
・新駅が県の交通・交流の拠点にならないのではないか。
 
ネガティブな指摘が多いが、どのようなアンケート調査をしたかまではわからないのである。全数調査だったのか抽出調査だったかで結果が大きく異なる可能性もあるからだ。
 
そして、よく考えて欲しいことがある。
一番気になったのが「新駅は千曲市の問題」として片付けられていることである。
果たしてそうだろうか…これが千曲市だけの問題かということを…
 
そしてこれらの指摘は、どちらかといえば直接的な利益をベースとしたものではないだろうか。
確かに、中南信の地域の方や既に新幹線駅の有る地域の方にとっては「直接的な利益」という観点でいえば微妙かもしれない。
しかし、「間接的な利益」という面では新駅が有るのと無いのとでは雲泥の差が出てくるのではないだろうか。
 
どういうことかというと、現在千曲市で持ち上がっている構想或いは既に整備が始まっている大型商業施設や物流センターの造成など企業誘致が積極的になっている。この3月には上信越自動車道屋代BS附近に設けるSICの新設場所も確定した。
仮に、大型商業施設が出来た場合、新駅が有る場合と無い場合では、物販の売上げという意味で何らかの影響があるのではないだろうか。
当然、物販の売上利益の増減や固定資産税というのは、千曲市のみならず長野県全体の税収にも大きく関わってくる。
しかも、新駅を構想していた場所は千曲市の中心市街地にも比較的近い。
千曲新駅とSIC
 
新潟県の新潟経済社会リサーチセンターの尾島進氏によると、人口密集地(中心市街地)や都市部にはヒト、ビジネス、産業が集積しておりそこからの税収源というのは非常に大きいという。そして、中心部や都市部が衰退していくということは、行政サービスの質、量ともに重大な影響をもたらすという。その上で、郊外や中山間地の住民が決して無関係というわけではないと指摘している。
 
千曲市は勿論であるが、長野県の税収にも関わると考えられ、子育てや教育といった市民県民に直結する政策にも影響を与えるのではないだろうか。
 
そして、一番強調したいことは『(甲信越北陸地域における)長野圏と長野県の拠点性の向上』ということである。
これまでは、『ピンポイントでの利便性を…』という時代だったし、私も当初は千曲市ピンポイントでの拠点性を…と考えていた。
しかし少子高齢化による人口減少やそれによる地方における都市間競争が激化している中において、これからの時代は長野市や須坂市など長野圏域で『面での拠点性向上』ということが求められるのではないだろうか。
 
新潟県では、2017年に新潟市や三条市をはじめとした『新潟広域都市圏』という連携中枢都市圏を結んでいる。同一の連携中枢都市圏内に複数の新幹線駅を有することになる。交通網に於いて選択肢が多いと言うことはかなりのアドヴァンテージではないだろうか。一方、2016年に長野地域連携中枢都市圏では長野駅の1箇所しかない。
 
ただでさえ新潟県では北陸新幹線開業の数年前から新潟市や長岡市を始めとした上越新幹線沿線市町の間で上越新幹線の枝線化や不便化を懸念した『2014年問題』と題して活性化同盟会まで設立された。そして北陸新幹線開業後、新潟駅は利用者数が減少に転じる可能性が高いと考えられていた。ところが、蓋を開けてみれば、利用者数は前年とほぼ横ばいどころか、むしろ微妙ではあるが利用者数を伸ばしている。北陸新幹線開業と上越新幹線の1便減便や所要時間の増加など不便化という大逆風の中でも堅実に利用者数を維持しているのである。
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それから、2014年問題について絡めて言えば、私は2016年に新潟市に行ったことがあるが、地元の政財界や一部市民の抱えている『危機感』というものは私たち長野県民が想像する以上にとても凄まじいものであった。北陸新幹線開業直前、長野市にも「通過されるのでは…」などといった漠然とした『危機感』が漂っていたが、全営業列車の停車やJR東西の乗務員の拠点駅化したことで、私を含めて一気にこれまでの『危機感』が薄れてしまった、どこかのほほんとした楽天的なムードになってしまっていたのではないだろうか。私が初めて新潟市を訪れ、いまも2014年問題という新潟の危機感と活性化への尋常ではない本気度を直接肌で感じた私は、長野県民の、のほほんとしたムードがいまも続いていることに逆に危機感と焦りを感じざるを得ない。
 
それだけではない。北陸新幹線金沢延伸後の2019年現在、長野駅の停車本数は、1997年開業当時の24往復から41往復へと大幅に増加した。しかしこれは、緩急接続などを目的として機械的に停車本数が増えただけであると私は推測する。そして長野駅の新幹線の停車本数が中間拠点駅としては全国の主要都市と比較して最も少ない部類に入るということをご存知だろうか。山陽新幹線の岡山駅は約100往復、東北新幹線の仙台駅は約70往復、九州新幹線の熊本駅は約60往復である。そして「のぞみ」や「はやぶさ」、「かがやき」が全便通過している静岡駅や、福島駅、高崎駅も50-60往復程度停車している。
 
いまの東京駅のJR東日本が運行している新幹線は東北系統、北陸、上越の3系統の新幹線が発着している。このうち東北方面には90往復程度が、長野・金沢方面には41報復が、越後湯沢・新潟方面には35往復が割り当てられている。そして、3系統の新幹線が乗入れる東京-大宮間の本数は、繁忙期では4分間隔で運行されており、最早パンク寸前の状態であるという。東京駅構内の配線等の改良工事を実施して3分間隔に詰めることができたとしても増便できる本数は数本に留まる可能性もあるのではないだろうか。2030年代には北海道新幹線が大都市「札幌」に延伸し、360km/hへの高速化も検討されている。そうなれば、一層東京-大宮間に割り当てられている発着枠を巡り「線路争奪戦」が激化するだろう。更に、北陸新幹線は大宮-高崎間で上越新幹線と線路を供用している。割り当てられる枠を巡っては大宮-高崎間も大きな競争相手であるのではないだろうか。
 
長野圏や長野県が地域間競争、都市間競争に勝ち抜くことが出来るようにするには、長野駅の発着本数をいまよりも10往復多い50往復程度かそれ以上なければ他の主要都市と同じ土俵で競争することはかなりの苦戦を強いられるのではないだろうか。
ただ、北陸新幹線に割り当てられている本数を今よりも増やすためには、更なる需要を生み出すことが求められる。
 
長野駅や上田駅は『需要追随型』の駅に対して、新幹線千曲市駅は『新規需要開拓型』の駅としてこれまでの新幹線駅とは大きく視点を変えた駅として整備すべきではないだろうか。

ただ、一昨年JRから示された「現状では線路の傾きがきついなど、技術的に困難」との指摘により中断したばかりの状況で直ちに誘致活動を再開を…とは言わない。
一方で、交通新聞社新書が出版している書籍『新幹線ネットワークはこうつくられた-技術の進化と現場力で築いた3000キロ-』(髙松良晴(著)2017.10.16第1刷発行)の「動き出した新幹線鉄道の大規模改修計画」(246-247頁)によると開業から50年を迎える2047年には高崎-長野間の大規模改修を始めなければならない時期に差し掛かるという。(本の内容(写メ)を掲載すると著作権侵害に抵触する恐れがありますので割愛させていただきました。ご了承ください。)
この改修に併せて新駅開設の要望をしてみるのも一つの方法であると考えるし、私的には出来れば今後100年以内に新駅が実現できたら…と考える。
線路の傾きを低減すると、所要時間が延びるのではとの指摘もあるが、確かに15年前位までは速度を落とす必要があった。しかし、この10年の間で車両を空気バネで傾斜させる装置が開発されたり、東海道新幹線の新型車『N700S系』のように加速力を通勤電車並に大幅に強化したり高性能化したりするなど技術革新が進み、現在進行中でこれらの技術はさらにブラッシュアップしているという。
千曲市域の区間よりもカーブがきつく造られている山陽新幹線『新神戸駅』はかつて170km/hまで速度を落として通過していたが、車両の側の技術革新で曲線半径3000mの区間でも230kmで通過できるようになったという(千曲市域の区間は曲線半径4000m)。いまではこの駅には全列車が停車しているが、現在の技術では280km/h程度での通過も可能であるものと考える。

 

できれば、JRの側から「新駅の設置を検討しましょう」等の言葉を引き出させるような所謂『戦略的新駅』という形で実現できたらそれに越したことはない。ただ、それにはかなり高いハードルが予想される。
『請願駅』として整備するという方法も悪いとは思わない。
ただ、先の誘致活動では市民の間では賛否が拮抗するなどしてしまった。今後、誘致活動を再開する場合にはあまり波風立てず静かな環境での誘致活動を進める必要があるのではないか。
また、鉄道はヒト、モノ、カネ、情報を呼び込む一つのツール。手段であるので、新駅誘致がゴールというか目的という訳にはいかないだろう。
先ずは、千曲市が持つ個々の持つポテンシャルといいましょうかストロングポイントを一つ一つ紡いでいけば、他県と勝負できる要素はあるのではないだろうか。そして、千曲市は、2つの高速道路とそれを繋げる更埴JCT、更埴ICと姨捨SIC、そして上信越道に新設予定のSIC、国道18号・403号、しなの鉄道、篠ノ井線等優れたネットワークを擁している。それぞれの交通機関の持つステータスを向上させていきたいものである。

 

一方で、(話題が少々反れるかもしれないが…)『道州制』に絡めて言えば、既に一部からは議論が持ち上がっているし、遅かれ早かれ国民的な議論が必要になる日がやってくるだろう。甲信越北陸で道州を組むことが現実的であると私は考えるが、その場合、地理的には長野市がほぼ中心に位置することになり州都としても相応しいのでは感じる。

 

そういった意味では長野市の隣である千曲市に新幹線新駅が出来ることで長野圏と長野県の拠点性がより一層向上するのではないだろうか。
そういった意味で将来に希望を持っておきたいものである。