「ゲド戦記」第6巻
~「アースシーの風」~
魔法の力をなくし、故郷の島で静かに暮らすゲドの許に、一人の若いまじない師が訪れた。
まじない師は、最愛の妻を亡くした後、常に悪夢にうなされていると言う。
夢の中で、彼は黄泉の国との境界にいて、死んだ妻をはじめ、次々と見知らぬ死者たちが現れ、彼の名前を呼び、「私を自由にしてくれ!」と懇願するのだ。
ゲドはそれが単なる夢ではなく、黄泉との境界に異常が起きていると考えた。
そこで、ゲドは、若いまじない師に、若き王レバンネン(王子アレン)と、今、王の許に行っている妻テナーと娘テハヌー(=テルー)を訪ねるよう計らった。
多島海諸国を統べる王となったレバンネンは、西海域で竜の襲撃を受ける非常事態と、東方の帝国との和平交渉に、頭を悩ませていた。
この事態について相談しようと、レバンネンは、ゲド、テナー、テハヌーを王都に招いたが、今や大賢人でも魔法使いでもなくなったゲドだけは来てくれなかった。
しかし、ゲドの伝言を持ったまじない師がレバンネン王を訪れた。
まじない師の身に起きていることは、世の中の均衡に大きな変化が起きつつあると…。
ついに、竜は王の島にまで襲撃を始めた。
これまでにない竜の襲撃は、西海域から人間を追い出そうとしているようだ。
レバンネンは部下や魔法使い、そして、テハヌーと共に、襲われている土地に向かった。
燃える森の上を飛ぶ竜を見つけると、突然、テハヌーは叫んだ。
タカの鳴き声のようなその言葉は、竜の言葉だった。
すぐに竜はテハヌーの傍に舞い降り、彼女に従うように会話をすると、また飛び去った。
王都に残って娘テハヌーの帰りを待つテナーは、東方の帝国から、政略結婚のため、レバンネンに遣わされた王女セセラクに会った。
テナーもかつてはその帝国の人間であったため、唯一、王女と話ができるのだ。
王女は怯えていた。
言葉は理解できず、竜のいけにえにされると言う噂を聞いたり、レバンネン王と結婚すれば魂を盗まれるなどと思い込んでいた。
帝国では、多島海諸国の人間はみんな邪悪な魔法使いであるとされていたからだ。
テナーは王女セセラクの友となり、こちらの言葉を教え、多島海諸国と王を理解するよう諭した。
一方、セセラクは母国で語られている竜の話をしてくれた。
かつて人間と竜は同じ種族だったと言う…。
レバンネン王とテハヌーが王都に帰って来た。
間もなく、テハヌーからの伝言を受け取った一体の竜が王都に飛来した。
その竜は王の館のテラスに降り立ち、光に包まれたかと思うと若い女性へと変身した。
そして、テハヌーと抱擁を交わした。
姉妹として。
女性に変身した竜はオーム・アイリアンと名乗り、かつては人間として生まれたが、今は竜の長老の娘であると。
彼女はレバンネン王が催す会議で語った。
竜たちが、人間を襲うのは、竜の住む世界を人間が奪ったからだと。
遥か昔、ひとつの種族から竜と人間に分かれたとき、竜は所有を捨て、人間は自由を捨てた。
しかし、欲深い人間は死を拒み、不死を願って魔法をかけた。
それが竜と人間の災いとなっていると。
テハヌーは感じた。
すべての答えは、アースシー誕生から存在する「まぼろしの森」にある。
レバンネン王は出立した。
テハヌー、オーム・アイリアン、テナー、死者に選ばれたまじない師、そして、帝国の王女セセラクと共に。
魔法学院のある島へ、
「まぼろしの森」へと…。
長くなりましたが、以上が、この巻の3分の2くらいまでの物語です。
少しネタバレの感はありますが、この要約した内容では、多分良く分からないと思いましたので、あえて書きました。
ゲド以外のキャラがすべて出揃い、魔法学院の賢人たちと合流して、いよいよ劇的なエンディングへと向かいます。
この最終巻のテーマは、何となくお分かりでしょう。
偉大な作家アーシュラ・K・ルグィンに感謝しつつ、
最後に、この巻の中で、私が最も好きなテハヌーの言葉を引用して「ゲド戦記」全6巻の紹介をおしまいにします。
『死んだら、自分を生かしてくれたもの、しなかったことも、なれなかったり、なくしたり、無駄にしたものも、みんな、この世界に戻せるんじゃないかなぁ。
まだ生きている途中の命に。
それが、生きてきた命を、愛してきた愛を与えてくれたこの世界への、せめてものお礼だって気がする』