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先日、東京ディズニーランドのアトラクション「美女と野獣”魔法のものがたり”」の舞台となる野獣の城は、18世紀半ば以降の建築物と考えられることについて書きました。
その根拠として、
・ ディズニー映画『美女と野獣』の中で、コグスワースが城の建築様式について、「後期バロック」、「ロココ」というキーワードに言及していること
・ 『美女と野獣』の物語がフランスで成立したのが18世紀中頃であること
・ 城内にロココ様式を代表する画家であるフラゴナールが1775年から1780年にかけて制作した絵画が飾られていること
を挙げました。
詳しくはリブログ記事をご覧いただければと思いますが、コグスワースの説明によれば、お城については、
・ ロココ様式のデザインは「最小限」(minimalist)にとどめられ
・ 後期バロックの要素が重視されている
とのことだったのですが、城内に飾られている他の絵画も見ると、
(おや…)
と思う点が少なくありません。
まず、リブログ記事でご紹介したフラゴナールの作品「ホットコックルのゲーム」の上に飾られている絵を見てみましょう。
この作品は、やはりフランス画家、ニコラ・ランクレ(Nicolas Lancret, 1690-1743)の「狩猟後の食事」(Le Repas au retour de la chasse)という作品。制作は1725年頃とされています。
フラゴナールの「ホットコックルのゲーム」は米国のナショナル・ギャラリーが所蔵していますが、こちらのランクレの作品の実物は、パリのルーブル美術館にあります。
フラゴナールの作品よりも少し古い時代の作品ですが、ランクレもまたフランスのロココ期を代表する画家です。
この作品の雰囲気からも感じ取ることができると思いますが、アントワーヌ・ワトー(Antoine Watteau, 1684-1721)が開拓した「雅宴画」(des fêtes galantes)、すなわち優雅な宴会を主題とした風俗画のジャンルを師匠のワトーから引き継ぎ、リードした画家の一人。
次はコチラをご覧ください。
フランスの画家、ジャン=バティスト・パテル(Jean-Baptiste Pater, 1695-1736)の「葡萄収穫期の田舎の祭り」(A Fête Champêtre During the Grape Harvest)という1730年代前半の作品。
実物は米国のダラス美術館に所蔵されています。
このパテルもやはりロココ期の画家であり、ワトーの弟子としてランクレと共にワトー死後の雅宴画のジャンルを牽引した画家。
パリでワトーに弟子入りした後、仲違いして郷里に引っ込んでいたのですが、重い結核を患い、死に瀕していた師匠ワトーと和解し、ワトーがこの世を去る直前に再び弟子となった人物です。
さらにコチラの絵画。
オーストリアの画家、ヨハン・ゲオルク・プラッツァー(Johann Georg Platzer, 1704-1761)の「宮殿の内装と舞踏シーン」(Dancing scene with palace interior)という作品。
こちらも1730年代前半の作品で、プラッツァーもロココ期の画家です。
実物はスウェーデンのスコクロスター城(Skokloster Castle)にあるようです。
こうしてお城の中に飾られた絵画のコレクションを見る限り、インテリアに関してはロココ様式は「最小限」どころか「全開」と言っても良い状況のようにしか思えません。
とは言え、たとえば最後にご覧いただいたプラッツァーの作品を所蔵しているスコクロスター城も、お城自体は17世紀後半に建てられた、ヨーロッパでも最も重要なバロック様式の建築物の一つとされています。
なので、バロック様式のお城のインテリアがロココ様式の絵画で飾られていることは、それほど違和感のあることではないのかも知れません。
先ほど、アントワーヌ・ワトーがロココ期に開拓した絵画の新ジャンルが雅宴画であると書きましたが、絵画における17世紀のバロック様式と18世紀のロココ様式の重要な違いとして、
・ 歴史画・宗教画から風俗画への画題の転換
が挙げられます。
つまり、歴史上の出来事や宗教的な逸話・伝説よりも、男女の愛の駆け引きをテーマにした絵画が目立つようになったのがロココ期の特徴です。
(余談ながら、近代以前の絵画美術の世界には、宗教画を頂点に、その次に歴史画を置く、いわば美意識の序列とでもいうべきものがあり、通俗的な主題の絵画は「美しいもの」とはみなされていませんでした)
この点を踏まえると、『美女と野獣』のロマンスの世界観によりマッチしているのは、ロココ期の絵画なのかも知れませんね。