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先週12月17日の金曜日(現地時間)、ロサンゼルスタイムズ紙にこのような記事が掲載されました。

 

 

 

 

ディズニーランドのマジック・キー年間パスがワンデーチケット購入者を優遇していると主張する訴訟

 

というタイトルです。

 

 

マジック・キー」(Magic Key)と言うのは、カルフォルニアのディズニーランド・リゾートが従来の年間パスポートに代わるプログラムとして8月に販売を開始したものです。

 

 

カルフォルニアのディズニーランド・リゾートが今年1月に年間パスポートの廃止を発表するに至った経緯については、以下の過去記事で取り上げましたので、ご興味がある方はご覧ください。

 

 

 

 

 

1.そもそも「マジック・キー」とは?

 

 

8月に販売開始した「マジック・キー」なるプログラムがどういうものなのか、かいつまんで言うと

 

・ 価格帯と予約申込除外日の異なる4つのカテゴリーに分かれた入園事前予約制の年間パスポート

 

です。

 

詳しい説明は公式HPをご覧いただければと思いますが、4つのカテゴリーは、

 

・ 年間365日全ての日に入園予約が可能なドリーム・キー(Dream Key):1,399ドル(約159,000円)

 

・ クリスマスや感謝祭、イースター休暇等の最繁忙期を除く320日程度の入園予約が可能なビリーヴ・キー(Believe Key):949ドル(約108,000円)

 

・ ビリーヴ・キーの除外日に加え、夏休み期間の6月~8月前半を中心に除外日が設定され、年間220日程度の入園予約が可能なエンチャント・キー(Enchant Key):649ドル(約7,400円)

 

・ 繁忙期以外の平日を中心に、年間150日程度の入園予約が可能なイマジン・キー(Imagine Key):399ドル(約40,000円、但し購入可能なのは郵便番号が90000~93599の南部カリフォルニア居住者のみ)

 

となっています。

 

 

 

2. マジック・キーの何が問題となっているのか?

 

 

これら4つのキーとも、11月の下旬には完売となったようで、大変好評を博していたように見えたのですが、一体何が起きたんでしょうかはてなマーク

 

 

訴訟を起こしたマジック・キーの購入者の言い分を要約したのがロサンゼルスタイムズの記事の1段落目。

 

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A lawsuit filed in U.S. District Court alleges Walt Disney Co. deceived buyers of a new annual pass who thought they would get unlimited access to the park but instead say they were blocked out in favor of daily-pass buyers.

 

(和訳)

連邦地裁に提起された訴訟において、ウォルト・ディズニー社が騙したとされている新たな年間パスの購入者は、無制限にパークへの入園ができるようになると考えていたにも関わらず、実際にはワンデーパスの購入者が有利になるように排除されたと主張している。

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記事では更に、訴えの内容が詳しく書かれています。

 

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The lawsuit by Jenale Nielsen of Santa Clara County, who is described as a longtime Disney customer, claims that Walt Disney Parks and Resorts sold her a Dream Key pass for $1,399 with the understanding that no dates would be blocked out to enter the Disneyland Resort in Anaheim. The Dream Key is the most expensive of the passes Disney introduced in August under a new annual pass program dubbed Magic Key.

Soon after buying the pass, Nielsen says she found that she couldn’t make a reservation to visit the park on any weekend in November, according to the suit. When she checked the Disneyland reservation website, she saw that the park was open for reservations for single- and multiple-day ticket buyers, who are charged up to $224 per visit.

 

(和訳)

長年にわたるディズニーの顧客とされているサンタクララ郡のジェネイル・ニールセンが提起した訴訟は、ウォルト・ディズニー・パーク&リゾートは、アナハイムにあるディズニーランドリゾートに除外日無しで入園ができるとの理解の下で、1,399ドルのドリーム・キーを彼女に購入させたと主張している。ドリーム・キーはディズニー社がマジック・キーと呼ばれる新たな年間パスポート・プログラムの下で8月に導入された最も高価なパスである。

 

訴状によれば、パスの購入後間もなく、11月のどの週末も予約を取ることができないことが判明したとニールセンは語っている。ディズニーランドのオンライン予約サイトを確認したところ、ワンデー及び複数デーチケットを最大224ドルまで支払って購入する予約者は入園が可能であることが分かった。

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どうやら、除外日無く入園予約が可能なドリーム・キーを買ったゲストが

 

・ ワンデーチケットが販売されている日なのに、ドリーム・キーでの入園予約が出来なくなっている

 

ことを、「約束が違う」と言っている、というようです。

 

 

契約違反を巡る民事の裁判となると、損害賠償請求なんかも気になるところ。

 

 

地元紙のオレンジ・カウンティ・レジスターの記事では

 

500万ドル(約5.7億円)規模の訴訟

 

と書かれています。

 

 

 

何だかすごい規模の金額ですが、これは訴訟を起こしたニールセンさんが1人で5億円を超える損害賠償を要求しているというわけではありませんのでご注意を。

 

 

ロサンゼルス・タイムズ紙の記事を更に読んでいくと、こうあります

 

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She is asking the court to certify the complaint as a class-action suit on behalf of the 3,600 people who have purchased Dream Key passes.
 

(和訳)
彼女は裁判所に対し、自身の訴えをドリーム・キーを購入した3,600人のゲストを代表する集団訴訟として認定することを要請している。。

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The lawsuit was originally filed in November in Orange County Superior Court but was moved to U.S. District Court because the case is a potential class-action lawsuit that involves “a matter of controversy that exceeds the sum or value of $5,000,000,” according to court records. The lawsuit says Disney collected more than $5 million selling the Dream Key.
 

(和訳)
訴訟はもともと、11月にオレンジ郡の高等裁判所に提起されたが、裁判所の記録によると、その後、本件が「500万ドルを超える価額を対象とする紛争」を巻き込んだ集団訴訟となる可能性があることを理由に、連邦地裁に移管された。訴状によれば、ディズニー社はドリーム・キーの販売により500万ドル以上を売り上げていた

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この部分は日本ではなかなか馴染みが無い、アメリカのユニークな裁判制度についての記載ですが、大事なポイントなので簡単に説明します。

 

 

まず、裁判については、日本と同様にアメリカでも地裁⇒高等裁⇒最高裁の三審制が採られているんですが、アメリカでは

 

・ 連邦裁判所の最高裁判所、高等裁判所、地方裁判所 と

 

・ 州の最高裁判所、高等裁判所、地方裁判所

 

という、二つの三審制度が併存しています。

 

法律の解釈と適用によって紛争を解決するのが裁判の役割であり、アメリカでは全土に適用される連邦法と、州ごとに異なる州法のそれぞれが存在することを思えば、当然と言えば当然のことです。

 

 

このため、裁判沙汰が起きた場合には、連邦法に基づいて解決すべき問題なのか、それとも州法に基づいて解決すべき問題なのかに応じて、

 

・ 連邦裁判所と州裁判所のどちらで裁判を行うべきなのかはてなマーク

 

ということを、最初に決めなければいけません。

 

 

2つ目のキーワードは「集団訴訟」(class action)。これは、訴えを起こした個人が、自分自身の利害のみではなく利害関係を同じくする集団に属する全ての人を代表して裁判を行う方式です。

 

 

したがって、この裁判について言えば、訴訟を起こしたニールセンさんは、自分と同じようにドリーム・キーを買った3,600人のゲストみんなが、自分と同じ損害を受けたとして、3,600人を代表して訴訟を起こしたいと主張していることになります。

 

 

勘が良くて暗算の早い人ならお気付きかも知れませんが、1,399ドルのドリーム・キーを3,600人に売った場合の売上額は503.6万ドルとなります。

 

 

「500万ドル規模の訴訟」という表現は、紛争の対象となっている取引の金額が500万ドル規模ということを表しているだけで、必ずしも損害賠償の要求額や裁判費用が500万ドルということではありません(※)。

 

 

(※)仮に、3,600人の購入者一人ひとりに対して、ドリーム・キーの購入代金1,399ドルを返金しろ!という内容の要求がなされているのだとしたら、損害賠償請求額は500万ドル規模となりますが、記事からは訴訟を起こしたニールセンさんの具体的な要求内容が明らかではないので、確たることは言えません。

 

 

ところで、この「500万ドル」という金額は、「連邦裁判所と州裁判所のどちらで裁判を行うべきか」という点について、ある重要な役割を果たしています。

 

 

ロサンゼルス・タイムズの記事では、さらっと金額について触れるにとどまっていますが、集団訴訟については、

 

・ 利害関係者が100人以上となる場合

 

・ 当事者の所在が複数の州に跨っている場合

 

・ 紛争の対象となっている取引の価値が500万ドルを超える場合

 

には、州裁判所に提起された訴訟を連邦裁判所に移管することができます。

 

 

本件の場合、利害関係者は3,600人で取引金額は503.6万ドルですから、1番目と3番目の条件が満たされていることは明らかです。

 

また、問題となっているのはカリフォルニアにあるディズニーランド・リゾートですが、実はマジック・キーを売っているウォルト・ディズニー・パーク&リゾートというディズニー社の子会社の所在地はフロリダ州オーランドなので、紛争の両当事者がカリフォルニア州とフロリダ州という異なる州に所在していることとなり、2番目の条件も満たされていることが分かります。

 

 

他の記事(たとえば投資家向けのこのような記事)を読むと、連邦裁判所への訴訟の移管は、ディズニー社の方が申し立てたようです。

 

 

原告のニールセンさんは、カリフォルニア州の消費者救済法や不当表示法、不正競争法の違反であるとしてディズニー社を訴えたそうですが、フロリダ州を所在地とするディズニー社にとっては、カリフォルニア州の法律を適用して裁判を行うよりも、連邦法に基づいて裁判を行う方が得策と判断したのかも知れません。

 

 

 

3.ドリーム・キーは「除外日無しで365日入園可能」なパスなのか?

 

 

このように、3,600人を巻き込んだ500万ドル規模の集団訴訟となる可能性があるものとして、連邦地方裁で争われることが決まったに過ぎない段階なので、今後の成り行きを予想するには時期尚早かも知れませんが、現時点で言えそうなことを指摘しておきたいと思います。

 

 

まず、もっとも重要なポイントは、訴訟を起こしたゲストが

 

・ ドリーム・キーを買えば、除外日無しで365日いつでも入園できる

 

と信じていた、という点です。

 

 

これについては、マジック・キーについて説明している公式HPに「重要事項」として、このように書かれてあります。

 

 

2文目に注目していただきたいのですが、

 

"Park reservations are limited, and subject to availability, public health orders, and applicable pass blockout dates, and are not quaranteed for any specific dates or park."

 

入園予約は限定的なものであり、予約の空き状況や公衆衛生に係る行政命令、パスに適用される除外日の影響を受けます。また、特定の日付、(ディズニーランドリゾートの2つのパークのうち)特定のパークについて、入園予約を保証するものではありません

 

とあります。

 

これを読む限り、予約枠に空きが無かったり、感染症の影響を受け、行政命令によって入園制限が掛かる場合などには、ドリーム・キーについても入園が保証されるものではないことはハッキリと書かれています。

 

 

最後の文も

 

"A Magic Key pass does not guarantee admission or access to any experience, attraction or offering or to park entry."

 

マジック・キーは、いかなるパーク体験やアトラクション、サービスの利用又は入園を保証するものではありません

 

と念押ししています。

 

 

要するに、

 

・ 365日いつでも入園予約の申し込みができることと

 

・ 365日いつでも入園できること

 

は違う、ということですね。

 

 

客観的に言って、ディズニーが「365日いつでも入園可能なパス」との触れ込みでドリーム・キーを販売していた、という主張は言い過ぎなような気がします。

 

 

実際に、マジック・キーの入園予約画面を見てみると、このように除外日のあるパス(ここではビリーヴ・キー)の場合は、カレンダーに "\" マーク("Blocked Out")で除外日が記されているのに対し

 

 

 

 

ドリーム・キーについては、 "\" が付いていません。

 

 

 

 

予約枠が埋まってしまっている日は駐車禁止の標識のような別のマークで表示されていて、確かに1月にかけて土日のほとんどが予約枠無しとなっています。

 

しかしこれは、予約状況に応じてリアルタイムに変動するものであって、始めから予約を受け付けない除外日とは明確に区別されているものです。

 

 

例えば、こちらは昨夜23:30時点でのドリーム・キーの予約状況。

 

 

そしてこちらが本日9:00時点でのドリーム・キーの予約状況です。

 

 

9時間半の間にも、12月21日及び22日、1月2日及び3日のランドの予約枠は無くなってしまった一方、キャンセルが出たのか、12月25日、26日や30日のランドの予約枠が復活しています。

 

 

したがって、「ドリーム・キーを買ったのに入園予約ができない!」という問題は、ドリーム・キーを持つゲストの間での先着争いの結果であって、全てのドリーム・キー・ホルダーの予約申し込みができなくなっているわけではなさそうです。

 

 

 

この点を踏まえると、次に大事な論点として、

 

・ ドリーム・キーを買った3,600人のゲストの中には、現状に満足している層も居ると考えられる

 

という点が挙げられます。

 

 

公式HPの説明にあるように、予約枠が限られたものであることをよく理解した上で、予約サイトの状況を頻繁に確認しているゲストであれば、入園を希望する日にきっちりと予約ができている可能性が高いと思います。

 

 

現状に満足している人々がたくさん居る場合には、ニールセンさんの訴えは、3,600人のドリーム・キー購入者の利害を代表するものとは認定されない可能性があります。

 

 

 

残る論点は、「ワンデー・パスは売っているのに、ドリーム・キーの入園予約ができない!」という主張ですが、これまで書いてきたことを踏まえると、これも「程度の問題」ということになるのかも知れません。

 

 

ディズニーランドパリのように、年パスを維持したまま、コロナ後に事前の入園予約を必須としている他国のディズニーパークでは、予約枠はパスの種類ごとに管理されています。

 

 

カリフォルニアのディズニーランド・リゾートにおいても、おそらく各種のマジック・キーとワンデー・パスとで予約枠が別々に設定されているのではないでしょうか。

 

 

そうであれば、

 

・ ドリーム・キーの予約枠が全て埋まっているけど、ワンデーの枠はまだ残っている

 

という状況は、往々にしてありえると思います。

 

 

ディズニーランド・リゾート側も、ドリーム・キーの予約がワンデーの販売に優先するとは一言も言っていないので、このこと自体が問題であると言うのは難しいのではないでしょうか。

 

 

先ほど「程度の問題」と書いたのは、たとえば3,600人の購入者に対して、ドリーム・キーの予約枠が1日100人とか、著しく少なく設定されているような場合には、不当な運用として争う余地があるのかも知れません。

 

 

こうしたことは、今後、裁判が進行するにつれて明らかになっていくのだと思いますが、現時点では評価が難しいところです。

 

 

 

東京ディズニーリゾートでも、年間パスポートの復活を望む声が根強いと思います。

 

 

この点では、従来の年パスを廃止したカリフォルニアのディズニーランド・リゾートの新たなプログラムは、東京ディズニーリゾートの今後の年パス復活の可能性についても示唆するところが多いと考えられます。

 

 

しかしながら、入園チケットやパーク・ホテルのレストランの予約が常に激しい争奪戦となり、パークの運営に対するゲストの不満が蓄積する現状で、東京ディズニーリゾートでもカリフォルニアのような事前予約制の年パスを導入した場合、ニールセンさんと同じような不満を抱くゲストが現れても不思議ではありません。

 

 

今回の件について、

 

・ ドリーム・キーを購入した他の3,600人のゲストはどう考えているのかはてなマーク

 

また、

 

・ ディズニーランド・リゾートのパーク運営が公正なものと判断されるのかどうかはてなマーク

 

事態の進展を見守る必要がありそうです。