皆さんこんにちはニコ

 

 

アメリカでは今週水曜日に、2003年公開のディズニー映画『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』(Pirates of the Caribbean: The Curse of the Black Pearl)に関して、こんな裁判所の判決がありました。

 

 

 

アルフレッド対ウォルト・ディズニー・カンパニー(Alfred vs Walt Disney Comany)

原告・上訴人: アーサー・リー・アルフレッド2世 (Arthur Lee Alfred II)他

被告・被上訴人: ウォルト・ディズニー・カンパニー (Walt Disney Company)

上訴提起: 2020年7月6日

判決確定: 2020年7月22日

 

 

 

1.何が起きているのか?

 

まず、何が起きているのかについてですが、脚本家のアーサー・リー・アルフレッド2世とエゼキエル・マルティネス・ジュニア(Ezequiel Martinez, Jr.)、トーヴァ・レイター(Tova Laiter)の3人が、

 

・ ディズニー映画『パイレーツ・オブ・カリビアン』は自分たちの脚本を盗作したもの

 

だとして裁判で争っている、ということなんです。

 

 

なんでも、

 

・ アルフレッド氏ほか3名が2000年に書いた海賊映画の脚本をディズニー社は買わなかった

 

のですが、果たして、完成した映画を見てみると…

 

アルフレッド氏

「2003年に公開された『パイレーツ・オブ・カリビアン』の内容が、オレたちの書いた脚本にクリソツやないか!!」

 

ということが問題となっている模様。著作権侵害問題です。

 

 

今回の判決は連邦控訴裁判所、日本で言う高等裁判所の決定ですが、一審の地方裁判所は、3人の脚本家による訴えを棄却していました。

 

 

アルフレッド氏と2人の脚本家が、地方裁判所の決定を不服として控訴裁判所に上訴したのが7月6日。

 

 

7月22日の控訴裁判所の判決は、地方裁判所に審理を差し戻す、というものです。つまりは裁判を最初からやり直す、ということですね。

 

 

 

2.似てる?似てない??

 

次に、裁判で争われているポイントをまとめておきましょう。

 

 

地方裁判所も控訴裁判所も、アルフレッド氏ほかの脚本と、映画『パイレーツ・オブ・カリビアン』との間に、類似する部分がいくつかあることは認めているようです。

 

 

脚本と映画との類似点として指摘されているのは、

 

・ 本編に先立つこと10年前にプロローグが用意されていること

 

・ 銃口を突き付ける戦いの最中に主要人物が登場すること

 

・ 宝石で埋め尽くされた島で、財宝を巡る物語が展開されること

 

・ かつて一級航海士だった男の裏切りの物語が含まれていること

 

・ 骸骨の乗組員たちが登場する恐ろしい場面が含まれていること

 

・ ならず者の若き海賊が、契約を履行する物語に焦点が当てられていること

 

などです…結構コアな部分で似てる感じもしますが。。。

 

 

ところが、地方裁判所では、こうした類似点について

 

・ およそあらゆる海賊物語に見られる、典型的な共通点

 

であると判断して、著作権法が保護の対象とする創作には当たらないと判断した模様。控訴裁判所の判決文には以下のように書かれてあります。

 

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The district court noted some of these similarities but dismissed the action largely because it concluded that many of the elements the two works share in common are unprotected generic, pirate-movie tropes. 

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この判決を取り上げたニュース記事なんかを見ていると、裁判の過程でディズニー社は、ディズニーランドのアトラクション、「カリブの海賊」なんかも持ち出して

 

「こういう要素は、問題となっている脚本が書かれるよりもずっと前から海賊の冒険譚には付き物の、よくある設定だった!

 

と主張していた様子です。

 

 

これに対し、控訴裁判所は、そのような脚本と映画との類似点について、現時点で著作権法の保護の対象に当たらないかどうかは判断できず、更なる証拠の提出と吟味が必要だと言っています

 

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But, at this stage of the litigation, it is difficult to know whether such elements are indeed unprotectible material. Additional evidence would help inform the question of substantial similarity.

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とりわけ、原告であるアルフレッドほかの脚本家たちは、類似点が著作権法の保護の対象と言えるかどうかについては、専門家の意見を聴く必要があると主張していて、控訴裁判所もその必要性を認めています。

 

 

面白いな、と思ったのは、控訴裁判所が、『パイレーツ・オブ・カリビアン』が約20年前の映画(←もうそんなに経つんですねビックリマーク)であることを踏まえ、次のように言っていることです。

 

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This would be particularly useful in this circumstance, where the works in question are almost twenty years old and the blockbuster Pirates of the Caribbean film franchise may itself have shaped what are now considered pirate-movie tropes.

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今日において、「海賊物語に共通のありがちな要素」と認識されているものは、大ヒット映画の『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズが約20年をかけて形成したものである可能性もあり、2000年代前半当時においても、脚本と映画との類似点が海賊物語の典型と言えるものであったかどうかは分からない、ということですね。

 

 

3.今後はどうなるのか?

 

さて、この控訴裁判所の判決の持つ意味ですが、これは先ほども書いたように、下級審の地方裁判所で、追加の証拠を提示し合って、もう一回裁判をやり直す、ということです。

 

 

アメリカの連邦裁判制度において、地方裁判所は事実の認定を行う事実審の役割を担い、控訴裁判所は地方裁判所が認定した事実に基づいて、法律の解釈と適用を行い、紛争を解決する仕組みになっています。

 

控訴裁判所は、自らが法律の解釈と適用を行うべき「事実」、すなわち、

 

・ 脚本と映画とが類似している部分について、創作性が認められるかどうか

 

の認定を、もっとしっかり行うように、ということを地方裁判所に命じた、ということですね。

 

 

大ヒット映画が盗作だった…となると、世間を揺るがす大スキャンダルになりそうです。

 

ディズニーパークのアトラクションに登場するジャック・スパロウほか、『パイレーツ・オブ・カリビアン』のキャラクターの運命をも左右しそうですね…えー?

 

 

裁判の成り行きを見守る必要がありそうです。