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今日は、カリフォルニアのディズニーランド・リゾートのカリフォルニア・アドベンチャー・パークの話題を一つ。
僕は、コメディアンのうえちゃんこと、うえだのまさゆきさんが海外のディズニーリゾートの情報を紹介する「ディズニー大好き!うえちゃんTV」が大好きで良く観ているのですが…
最近では、この、カリフォルニアのディズニーランド・リゾートのパークフード特集が特に面白かったです
この中で、うえちゃんが、カリフォルニア・アドベンチャー・パーク内にあるパシフィックワーフ・カフェ(Pacific Wharf Cafe)というお店を訪れ、アルチザン・ブレッドをくり抜いて中にクラムチャウダーを入れた食べ物を美味しそうに食べています(8:45-11:13、パシフィックワーフ・カフェのHPへのリンクはこちら)。
他の日本人の方のレビューを見ても、
「パシフィックワーフ・カフェのブレッドボウル・スープが大好き」
という方も少なくないようですので、今日はこのブレッドボウル・スープについて書きます
1. ブレッドボウル・スープはパークオリジナルじゃなく本物のローカルフード !
知っておくとパークフードが更に楽しくなるポイントとして、まず挙げておくべきことは
・ パシフィックワーフ・カフェのブレッドボウル・スープは、正真正銘のローカルフード
だということです
どこに行けば食べられるのかと言うと…ディズニーランド・リゾートのあるアナハイムから北西に約650km離れた海辺の街、サンフランシスコです。
パシフィックワーフ・カフェでブレッドボウル・スープを提供している "Boudin"(ブディン)は、サンフランシスコの地元の有名ベーカリーなんですよ
実際に、Boudinのホームページを見ると、ディズニーランドにお店を構えていることが紹介されています パン職人ミッキーかわいい
(Boudinのホームページより引用。リンクはこちら)
2. Boudinの歴史が凄い!ゴールドラッシュの生き証人!!
では、星の数ほどあるベーカリーの中から、なぜBoudinがカリフォルニア・アドベンチャー・パークのテーマ・レストランとして選ばれたのか
これは、ベーカリーの枠を超えて、あらゆるビジネス・ジャンルを通じて見ても、Boudinこそがカリフォルニアの歴史を体現するローカル企業だから、なんだと思います。
実はBoudinは、現存するサンフランシスコの企業の中でも最古の歴史を持つ企業(!)で、その創業は1849年。
この1849年という年を聞いて ピン と来た人は、さすが
そう、カリフォルニアのゴールドラッシュの始まった年です
カリフォルニアのゴールドラッシュについては、以前、ビッグサンダーマウンテンについての記事で詳しく書きました(リンクはこちら)。
要するに、1848年に北カリフォルニアで金脈が発見されたというニュースがアメリカ全土を駆け巡り、一攫千金を夢見る冒険野郎たちが我も我もとサンフランシスコに殺到して…
・ 人口500人ほどの田舎町だったサンフランシスコが、たった1年で人口25,000人の都市に変貌を遂げた
というお話です。そして、これをきっかけに、1850年にカリフォルニアはアメリカ合衆国31番目の州となるのでした。
つまり、ゴールドラッシュが無ければ、今でもカリフォルニアは西部の荒野だった可能性もあるわけですから、ゴールドラッシュの年に創業し、今もなお存続しているBoudinの歴史は、カリフォルニアの歴史そのものと言っても過言ではありません。
さて、そのBoudinの創業者も、もちろんカリフォルニアの外からやってきたのですが…
今でもバゲットやアルチザンといったフランスパンを売り物にしていることからも推測できるかも知れませんが、創業者のイシドア・ブディン(Isidore Boudin)は、フランスからの移住者なんです。
この人の目の付け所が凄いなぁと思うのは、サンフランシスコ中が黄金の採掘に熱狂する中、一攫千金を求めて黄金探しをするよりも
黄金目的で殺到する人々に食糧売ったら、絶対儲かるやん!
ということに真っ先に気付いた点ですね。
実際のところ、黄金は掘れば必ず見つかるというものではなく、また、地表近くの採掘しやすい場所にあった黄金は数年も経たないうちに掘り尽くされてしまったらしく、
・ ゴールドラッシュの時代に最もビジネスで成功したのは、実は黄金の採掘者ではなく、彼らを相手に日用品を売りさばいた人々
ということが言われているくらいですので、1849年時点でいち早くこの可能性に目を付けたBoudin家の商才には頭が下がります。
3. 酸っぱいパン誕生秘話:サンフランシスコの空気が生んだ奇跡!?
さあ、いよいよ、パシフィックワーフ・カフェのあの独特の酸っぱいパンの秘密に迫ります
酸っぱいパンことサワーブレッドは、地元では
・ 酸っぱい生地 = サワードー(sourdough)
と呼ぶのが一般的です。
「酸っぱい」という感覚は、食べたことのない人には分かりづらいと思いますが、一度食べてみるとハッキリわかると思います。
酸っぱいです、ハイ
なぜ酸っぱいのか
これも、うえちゃんTVにちゃんと解説がありまして(動画の9:13)
・ サワーブレッド: 乳酸菌を使った酸味のあるパン
ご名答です。その通り
【質問】
Boudin家の人々は、なぜわざわざ乳酸菌を使って酸っぱいパンなんか作ったの
【答え】
「わざわざ」使ったわけじゃないんです
パン作りはまず、水で練った小麦粉を寝かせて、イースト菌によって生地を発酵させるところから始まります。
19世紀当時の話ですから、イースト・キットなんて存在していません。空気中に存在するイースト菌の力を借りる自然発酵によって、生地が作られるわけです。
ゴールドラッシュで押し寄せる人の群れに、本格的なフランスパンを売って儲けようと計画したBoudinさん一家も、このルールに従って、生地を空気にさらして寝かせておいたわけですが…
なんと、
・ サンフランシスコの空気中には、イースト菌の100倍もの数の乳酸菌が存在していた
このため、自然発酵で作ったフランスパンは、意図せず独特の酸っぱい味わいを持つようになった、ということです。
つまり、「乳酸菌を混ぜた」のではなく、「乳酸菌は原住民だった」というのが真相です。
空気中に存在する細菌の構成は、土地によってさまざまなので、異なる土地で自然発酵により作られた生地からは、異なる味わいを持つパンができます。
このことを明確に認識していたのかどうか定かではありませんが、サンフランシスコのパン屋さんたちの間では、
・ サンフランシスコの半径50マイル(80キロメートル)外に出ると、サンフランシスコのサワーブレッドと同じパンは作れない
という都市伝説が、まことしやかに語り継がれていたそうです
4. そしてついに科学的検証が!地元の乳酸菌に命名!?
さてこの
・ 「サンフランシスコ流サワーブレッドは、サンフランシスコでしか作れない」という都市伝説
は、科学者の好奇心をくすぐったらしく、レオ・クライン(Leo Kline)とフランク・スギハラ(Frank Sugihara)という二人の細菌生物学者がサンフランシスコのパン屋にある酵母という酵母を調査して、1971年に研究成果を論文として発表します。
Kline, L., & Sugihara, F. (1971). Microorganisms of San Francisco sour dough bread process. Applied and Environmental Microbiology, 21(3), 459-465.
「サンフランシスコのサワーブレッドの工程における微生物」と題されたこの論文で明らかにされたのは、
・ サンフランシスコで自然発酵させた生地の中では、イースト菌と乳酸菌が他の土地では見られない絶妙な共存関係を構築している
ということです。
特に、他の土地では見られない特徴として、
・ サンフランシスコの大気中に生息する乳酸菌は、麦芽糖を食べないと生きていけない
一方、
・ サンフランシスコの大気中に生息するイースト菌は、乳酸菌が生み出す酸を受けても死滅しない上、他のイースト菌と異なり、小麦デンプンから生成される麦芽糖を消化しない
ということが発見されました。
要するに
・ 自然発酵させたパン生地の中で乳酸菌が生存できるのは、サンフランシスコだけ
という結論だったようです。
この研究によって、サンフランシスコの地元の乳酸菌くんは、新種の乳酸菌であることが分かり、名前が付けられます。
その名も
・ lactobacillus sanfranciscensis (ラクトバシラス・サンフランシセンシス)
…なんかもう、名前が限りなく サンフランソーキョー みたいになってますが 乳酸菌に街の名前が付くとは、大したもんです。
5. 今でも1849年創業当時の酵母が使い続けられています!!
このように、サンフランシスコの自然の力を借りることなくしては作ることのできないサワーブレッド。
Boudinでは、今も1849年創業当時の酵母が使い続けられています。カリフォルニア・アドベンチャー・パークのパシフィックワーフ・カフェのサワーブレッドも、間違いなくサンフランシスコから運ばれてきたマザー酵母によって作り出されたものであるはずです
いかがでしたか
酸っぱいパンに歴史あり…というか
・ 酸っぱいパンこそがカリフォルニアの歴史である
ということが伝わるように書けていたなら、嬉しいです
このサワーブレッド、本当に地元では当たり前の食べ物として根付いていて、スーパーマーケットなんかでフランスパンっぽいものを買うと、たいてい酸っぱいです。
サンフランシスコの人たちはそれを当たり前のように食べていて、こういうブレッドスープだけじゃなく、フレンチトーストからラスクから、何でもこの酸っぱいパンで作ってしまいます。
まさに地元民のソウルフード
うえちゃんTVの中で、うえちゃんが
・ 酸っぱいパンは、日本人に合うかどうか分からない
・ うえちゃん自身は、まあまあ好き
・ でも、クラムチャウダーが無かったら、ちょっとしんどい
とレビューしているんですが、この気持ちはすごく分かります。
むしろ、「クラムチャウダーが無かったら、ちょっとしんどい」ってことを考えると、二番目の「まあまあ好き」は、むしろ優しさで言ってくれてるんじゃないかとすら…
僕も昔、このエリアの近郊に住んでいた頃、最初は普通に食べるのが無理だったんですが、なんせいろんなお店で食べるパン料理がことごとく酸っぱいパンを使っているわけでして。
食べやすく調理したものから慣れていくうちに、最後の方はもはや中毒してきたのか、酸っぱいパンを普通に受け入れる、というか、むしろ美味しいと感じるようになりました。
案外うえちゃんも、何度もカリフォルニア・アドベンチャー・パークに通う間に、徐々に中毒しつつあるのかも…
さて、このパシフィックワーフ・カフェでは、サワーブレッドの製造工程が見学できるアトラクションがあり、動画でも紹介されています(9:27-10:22)。
サンフランシスコのフィッシャーマンズワーフにあるBoudinも、サワーブレッド作りを見学したり、サワーブレッドの歴史を知ることができるミュージアムが併設されているんですよ
こういうの見学すると、なんか食べ物に対する愛着が湧いてくるというか、心がグッと鷲掴みにされますよね
そして、当然サンフランシスコでは、パシフィックワーフ・カフェと同じように、サワーブレッドをくり抜いて作ったボウルに入ったスープを味わうこともできます
これは、季節メニューで提供されていた、スカッシュ(夏カボチャ)とピーカンナッツのスープ
スープの中身こそ違いますが、パシフィックワーフ・カフェで売ってるのと同じでしょ パンの酸っぱさも全く同じです
ディズニーランドのすごいところって、夢の国なのに、こういうリアルなものも必要に応じて積極的に取り入れて、テーマの再現性を限りなく高めるところですよね。
ゴールドラッシュ当時から存在するパン屋さんのパン食べたら、そりゃぁ気分はもう開拓時代の西部フロンティアですよ
皆さんも、カルフォルニア・アドベンチャー・パークを訪れる際には、ぜひこの酸っぱいパンをエンジョイして、カリフォルニアの歴史や風土に思いを馳せてみてくださいね