祈ることを、やめた。祈りは、不安の裏返しだと気付いたからだ。面談も契約も必ずとれる。運が強いのだから、必ずうまくいく。新たな仕事は、潜在意識に<成功>を植え付けることだった。強運。とれる。成功。三つの言葉をひたすら唱え、不安という仇敵と闘い、日々を紡いだ。天も哀れとおぼしめしたのか、細いながらも、収入の道が土砂に塞がれることはなかた。しかし、食べてさえいければそれでよし、とするのであれば、話は簡単であった。ことは、そうはいかなかった。目前に大きな障壁が立ちはだかっていた。息子の大学受験であった。蓄えはゼロであったから、契約を勝ち取ることは、親としての至上命題であった。強運。とれる。成功。念じることしか、できなかった。二00七年、世界経済が暗礁に乗り上げた。サブプライム住宅ローン危機に端を発したアメリカの経済危機は拡大し、翌二00八年には、リーマンブラザースの経営が破綻した。世界が揺れた。日本も、大揺れであった。解雇の嵐が吹き荒れた。明日は我が身であった。(強運だって言われているんだし、潜在意識を変えたから大丈夫。あわてたって、何の解決にもならない。強運。とれる。成功。念じるしかない。それにしても、インナーチャイルドのワークに行っておいてよかったわ。この事態を見越していたかのようだわ)。確かに、運が強いのかもしれない。確信とは言えないまでも、どこかでそう思った。ある日、信じられない出会いがあった。それは、虹に彩られた言葉だった。--遅くなっても待っておれ。それは、必ずやってくる--。ふと、手にした本の、パッと開いた頁に見つけた聖なるフレーズであった。身体が凍りつき、息をするのも忘れた。大いなる慈悲が燦々と注がれているのを感じた。(ほら、やっぱり大丈夫じゃない)。屈託なく笑えた。免状をもらってニッコリと微笑む少女と今の自分が、しっかりと重なり合った。開運の女神が頭上に訪れていることなど、まだまったく知らなかった。