3.5次元の不倫 -12ページ目

3.5次元の不倫

この本は恋愛と人生についての小説ですが、
ひきつづき児童書(英語の対訳付)を書きました。
おたのしみに!

一日に十二時間のノルマを課し、自分との闘いに身を投じた。息子の身体からは、近寄りがたい殺気が漂っていた。手出し無用となった息子に親としてできることはただひとつ、飛翔に必要な金の工面であった。可能性はと言えば、<みつまた>の工事の受注、それに尽きた。

強運。とれる。成功。唱えるのが日々の責務であった。<遅くなっても待っておれ。それは必ずやってくる>。信じるのが仕事であった。一日の終わりにも、欠かせない日課があった。それは、未来予想のドラマを観ることだった。

三木本氏から発注決定の電話が入る。「発注が決まったよ」「本当に? 奇跡が起きたわね」「ああ。この不景気に、信じられないよ」。固く手を握り合う。ありありとイメージするうちに、顔には勝利の笑顔が浮かんでくるようになった。成功のイメージをしっかりと脳に刻みつけて、眠りについた。吾朗も、等しく同じことをした。唱え、信じ、イメージし、夏は駆け足で過ぎ去って行った。

電話が鳴った。ちょうど昼の支度中だったため、吾朗が電話口へと急いだ。--似ているわふと、そう思った。「本当ですか?」吾朗が叫んだ。よもや……心臓が高鳴った。「本当にありがとうございます。早速、ご挨拶にあがります」--料理を作る手が固まった。こわくて、その場に立ち尽くしていた。吾朗が、こわばったような笑みを浮かべて目の前に立った。

「三木本さんからだった。やったよ! 受注が決定したんだ」

「本当に? 本当なの?」

「間違いないよ。三木本さんも、お役に立てたってものすごく嬉しそうだったよ」

「おめでとう! おめでとう! 奇跡が起きたわね」

「ああ。この不景気に、まさに奇跡だよ」

「イメージ通りのことが起きたわ。想いは、現実になるのね

「僕も、今、震えが来ている。夏中、脳に刻んだイメージが現実になったんだから」

「とにかくおめでとう。あなたの努力は、一生忘れないわ」

固く、手を握り合った。