一日に十二時間のノルマを課し、自分との闘いに身を投じた。息子の身体からは、近寄りがたい殺気が漂っていた。手出し無用となった息子に親としてできることはただひとつ、飛翔に必要な金の工面であった。可能性はと言えば、<みつまた>の工事の受注、それに尽きた。
強運。とれる。成功。唱えるのが日々の責務であった。<遅くなっても待っておれ。それは必ずやってくる>。信じるのが仕事であった。一日の終わりにも、欠かせない日課があった。それは、未来予想のドラマを観ることだった。
三木本氏から発注決定の電話が入る。「発注が決まったよ」「本当に? 奇跡が起きたわね」「ああ。この不景気に、信じられないよ」。固く手を握り合う。ありありとイメージするうちに、顔には勝利の笑顔が浮かんでくるようになった。成功のイメージをしっかりと脳に刻みつけて、眠りについた。吾朗も、等しく同じことをした。唱え、信じ、イメージし、夏は駆け足で過ぎ去って行った。
電話が鳴った。ちょうど昼の支度中だったため、吾朗が電話口へと急いだ。--似ているわ—ふと、そう思った。「本当ですか?」吾朗が叫んだ。よもや……心臓が高鳴った。「本当にありがとうございます。早速、ご挨拶にあがります」--料理を作る手が固まった。こわくて、その場に立ち尽くしていた。吾朗が、こわばったような笑みを浮かべて目の前に立った。
「三木本さんからだった。やったよ! 受注が決定したんだ」
「本当に? 本当なの?」
「間違いないよ。三木本さんも、お役に立てたってものすごく嬉しそうだったよ」
「おめでとう! おめでとう! 奇跡が起きたわね」
「ああ。この不景気に、まさに奇跡だよ」
「イメージ通りのことが起きたわ。想いは、現実になるのね」
「僕も、今、震えが来ている。夏中、脳に刻んだイメージが現実になったんだから」
「とにかくおめでとう。あなたの努力は、一生忘れないわ」
固く、手を握り合った。