サンの小屋に、万歳三唱の大声が響き渡った。吾朗と二人で、何度も何度も万歳と叫んだ。息子は、難関と呼ばれる私立大学に無事、席を確保したのだった。
小谷野の契約獲得、そして息子の合格。どちらも、奇跡に近い至難の技だった。
「ありがとう。恩返しするからさ」
「もう、してもらったわ。男を立てたわね」
「親には十分やってもらったんだから、ここで火がつかなきゃ人として失格だと思ってさ。だけど、正直言って、これほど苦しいことはなかったよ」
「そうでしょうね。立派だったわよ」
ポンと、息子の広い背中をたたいた。
苦しきことのみ多かりき、の我が家にやっと花が咲いた。桜が咲いた。それも満開だわ--遅くなっても待っておれ。それは必ずやってくる--真理だった。
貧しくも 睦まじくあるを 旨として
育みし吾子 今朝家を発つ
弥生、三月、息子は意気揚々と巣を飛び立って行った。
「寂しかったろうね。掌中の珠みたいなひとり息子が遠くて行ってしまってさ」
御方様が、切々とした調子で言った。
「ええ、それは、もう…。東京へ送り出すまでは夢中でしたから、寂しさを感じる暇もなかったんです。なにしろ、莫大なお金がかかりますから、遣り繰りに必死で…」