息子と一緒に、担任と相対していた。いわゆる、三者面談であった。心には、波風ひとつ立っていなかった。親としての心づもりは。とうに決まっていたからだった。
はたして、息子の現状は、志望する大学の偏差値に対して、一歩も二歩も及ばず、といったところであった。
「あくまでも現役にこだわるなら、志望校のランクを下げたほうがと思うのですが、親御さんのお考えをお聞かせください」
担任は、息子の顔色をうかがうようにしつつ、問いかけてきた。息子は、じっと黒板をにらんでいた。
「はい。私、今日は、息子に感謝を捧げたくてここに来ております」
「はっ、感謝ですか?」
教師は、いぶかしそうな顔をした。
「はい。合格へ向けて、どちらのご家庭も、塾へやったり、家庭教師をつけたりされています。子供のお友達も、かなり高額な塾へ通っているそうです。ですが、私どもは家庭の事情で、どうしてあげることもできないでおります。一番大切な時期に、何も手を打つことができず、苦しんでおります。しかし、息子は恨み言ひとつ、泣き言ひとつ言わず、自力で立ち向かっております。夏には、一日に十二時間、勉強に没頭しておりました。その姿は、一生忘れません。結果がどうあれ、息子は自分との闘いに勝利したと言えると思います。我が子を誇りに思いますし、感謝の気持ちで一杯なんです。今日は、そのことを是非とも本人に伝えたかったんです。主人も、まったく同じ気持ちでおります。長々と、失礼いたしました」
担任は、瞳を潤ませていた。
「長いこと教師をしていますが、この局面で、子供さんに感謝するとおっしゃった親御さんは初めてです。お子さんを責める方が多くて、気まずい沈黙になるんです。下手をすると、親子喧嘩にさえなったりします。今のお話には、胸を打たれました。教師をしていて、良かったと思っています。小谷野君、良いご両親をもったね。幸せだぞ」
「はい、まあ…」
息子は、気恥ずかしそうに、それでも軽く笑顔を浮かべた。