第13章 因幡の白兎(3) | 3.5次元の不倫

3.5次元の不倫

この本は恋愛と人生についての小説ですが、
ひきつづき児童書(英語の対訳付)を書きました。
おたのしみに!

(ああ、嬉しい。もうじきボーナスだわ。死ぬほど恥ずかしかったけど、頭を下げて戻って良かった。戻るは一時の恥だけど、一度落ち込んだ貧乏の穴からは、簡単に抜け出せないもの)。デスクで、原稿に赤字をいれながら、屈辱を代償に取り戻した安定に酔いしれていた。

(もう二度と会社を辞めたりなんかしない。月が変われば、判で押したようにお給料がもらえて、半年我慢すれば、ボーナスがもらえるんだから、こんなに有り難い話はないわ。拾ってもらったんだから、しっかり仕事をして恩返しをしなくちゃ。だけど、知っている人が一人もいないのは、寂しい限りだわ。浦島太郎そのものじゃないの。あれ…、でも、本当かしら? 私、本当に会社に戻れたのかしら…)。目覚まし時計が鳴り、やはり夢だったとわかっても、しばらく起き上がることができなかった。

(私という人間は、こんな惨めな夢を見るために生まれてきたのかしら。子どもまで与えておきながら、生存を脅かす神の意図がわからない。ショー君はまだ五歳、この先、一体どうなってしまうんだろう)。小さな空間に、パッチワークのようなお弁当を作り終えた時、抑えていた涙がクマのプーさんの蓋を濡らした。

「今朝ね、理工舎に戻ってボーナスが貰える夢を見たわ。情けなくて、今日は落ち込んでいるのよ」

納まりのつかない感情をぶつける相手は、小谷野をおいていなかった。

小谷野が、コンピューターの電源をパチッと切り、向き直った。

「やけにため息をつくなと思っていたんだけど、夢のせいだったのか。いやあ、実にお互い様だね」

「お互い様って?」

「やるせない夢を見たことがあるんだよ。それも、一度ならずね」