日本に住むようになって驚きことはたくさんあったが、この時期私の気を引くのは秋から冬にかけて吹く風である。年中暖かい国に住んでいたから風が吹いても大して体感温度は変わらず、気づかなかっただけなのかもしれないが、印象として日本では秋から風がずいぶんと強くなっていると感じる。このことに初めて気づいたのは受験勉強のために日本にとどまった2年前、銀杏の木が並ぶ大阪の道路際を歩いていると急に背後から風の波が押し寄せた時だった。その瞬間、銀杏の木から黄色の葉が勢いよく散り、風に乗ってくるくると回るように飛んで行き、すでに道路に落ちた葉は命を吹き返したかのようにまた舞い上がった。目の前に広がる葉っぱの吹雪を前に、よく見る秋のポストカードのイラストで風景に散り乱れる紅葉は何も大げさに描かれているわけでもなかったのか、と単純に感心したのを覚えている。
風が止むまでのひと時、鮮やかな黄色が、面白みのない灰色の街並みを彩ったから、一層舞踊る葉が魅力的に見えたのだろうか。いずれにしろ、それまで不格好に横に伸びる枝が切られ、不自然に葉が付いた背が高いだけの木だった銀杏が、その瞬間自分の中で特別な魅力を持つ植物となったのはあの時私の背後から通り抜けていた秋風のおかげである。
次に風が私に驚きを運んできたのは大学に通い始めた最初の秋である。肌寒さが冬の到来を予感するようになった頃、校内を歩いていると足元に小さなつむじ風が通り抜け、その場に散らかっていた葉を拾ってくるくると回ったのである。自らの意思をもって踊り出したようにも見える風による葉っぱのダンスは小さくも美しいもので、同時にどこかいたずらな風の小遊びにも見えてほほえましい。そのつむじ風は、秋は寒いだけで華やかさに欠けるという印象を変えるきっかけとなった一幕となった。
銀杏の葉の雨とつむじ風と落ち葉の踊りと言った秋風が魅せる素敵な景色に毎年出会っているように思ったが、残念ながら今年の風は私に新たな景色を届けていない。気づけば秋は過ぎ去ったのに風の勢いはそのままで冬の季節に入ったのではないかと思うこの頃。外を歩けば吹き付ける冬の風から逃げるようにマフラーに顔をうずめ、そのせいで心なしか視野が狭まっているかのようだ。夜になれば窓も扉もきっちり閉めてあるはずなのにどこからともなく入る隙間風が甲高い笛のような音を奏でる。
思えば、今年の冬は嫌でも風に意識を向ける回数が増えている気がする。しかし、どんなに風が体温を奪い、部屋の窓枠を揺らそうとも真っ先に思い浮かぶのは二年前に見た銀杏の葉と去年見たつむじ風だと最近になって気づいた。慣れない寒さに加担する冬の風だが、来年の秋にはまた素敵な落ち葉の踊りを見せてくれるのだと思うと、嫌いにはなれないのである。