アイドルオタクというのは、推しを自分だけの文脈で語りがちだ。
「自分にとって初めての現場だから」「自分が初めて刺さった曲だから」etc…。
あくまでも個人的な体験で、物語を更新して推しを語る、語る、語る。語る。
実にめんどくさい、いきものだ。
7月にエクストロメ福島が発表された。演者にはクマリデパート、tipToe.の名前が。
2022/5月のエクストロメ福島。
この時が現体制の2期tipToe.を見た初の現場である。そういう意味ではエクストロメ福島は「僕にとって」特別な場所なのではあるが、今年の発表はクマリデパート縁日の当落発表直後だった。落選なんて無いだろう、マナちゃんの浴衣楽しみだな、すっかり発表以来行く気しか無かった僕にとって、その落選はオタクとしての「死刑判決」に等しかった。アイドルモチベが急降下した僕はエクストロメ福島も見なかったことにした。
徐々にアイドルモチベが元通りになってきた。
時を前後して、tipToe.2期の活動終了が発表された。元々3年縛りのグループではあるので「いつかいなくなってしまう」その事実こそ受け入れていたが実際発表されると一気に現実として押し寄せてきた。
人は歳をとる。命は永遠では無い。納豆は賞味期限が切れても食べられる。アイドルはやがて終わる。日常の中で見て見ぬふりをしていても、ある時突然目の前に現実を突きつけられた時、人は動揺する。
とはいえ、今の僕にはちょっとした心の揺れがあっただけでそこまで深刻な話では無い。まだまだ日常は続いている。
そんな時、知り合いから「福島行くんなら車乗ってきませんか?」と連絡が来た。至極単純にクマリデパート、tipToe.で遠征がしたい、という気持ちと、「初めてtipToe.と出会った、そしてtipToe.にとって最後かもしれない福島を見届けたい」という「オタクのめんどくさい文脈」が決定打となり行くことを決めた。
2023/8/20 エクストロメ福島
エクストロメ福島に来るのは、今回で3回目。初回は2021/5月、クマリデパート目的であった。2回目は2022/5月。先に書いたように現体制tip Toe.と出会った日。ただこの時点での目的はクマリデパートとukkaであった。以前のエクストロメ福島の特別感といえば「コロナ禍で唯一声出しが許された現場だった」という事である。福島へ向かう道中、友達が「もう今福島に行くメリットって無いんですよね」。余り深く考えていなかったが、まぁ、確かに。
「今年で最後かなぁ」。。。
エクストロメ福島、といえば、アイドルにとってもオタクにとっても「昼飯はうろこいち(という海鮮屋さん)」と相場が決まっているのだが、前日に会ったクマリオタクと話していたら「今休業中ですよ」と言われてしまった。仕方なく適当にPAで空腹を満たす。
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20230821/21/harpomarx/c0/e4/j/o1080080915328211751.jpg?caw=800)
福島へ向かう道中、車内で友達から「tip Toe.のシャッターチャンスが1番好きなんですけど見た事無いんですよね」と言われた。「え、めっちゃやってるよ。なんなら今日もやると思うけどなぁ」と答えた。
友達は車内のスピーカーからtip Toe.の曲を流し、運転していたtip Toe.を知らない友達にしきりと「宮園ゆうかがいいんだよ〜」と話し始めた。
おいおい。
喉元迄異論が出そうになったが、一旦飲み込んだ。
入り口はどうあれ、自分の好きなグループに興味を持ってくれている事自体は素直に嬉しい。
tip Toe.もクマリも出番は遅めなのだが、友達が午前中のfiger runs目当てだった為、5時半起き7時待ち合わせ。ちんたら休みながら福島に着いたのは日差しか強くなり始めた11時過ぎであった。トッパーのRAYは既に終わり、車から降りるとわれプアが始まっていた。
「RAY見なくて良いんですか?」
RAYがtipToe.と同じ事務所と知っている友達は驚いたように聞く。「いや、実はあんまり知らない」。
何度か見てはいるのだが俗に言う「シューゲイザー」がよく分からない…。
僕は、刺さらないグループには醒めている。
「そうすかぁ。xxxxxxxx良い曲なんですけどね」。
残念そうに友達が言った。
車の後方に座ってた僕にはイマイチ曲名が聞き取れなかったが、特に興味もなく聞き返すことも無く「へぇ」と無意味に笑った。
finger runsは最近被る事が多い為、割と見ている。一曲目の「ストームライダー」が最高にかっこいい。場内には既に朝から来ているクマリの知り合いやら、他現場の知り合いの姿が見えた。
東京よりは気温が低い筈なのだが、それでもやはり暑い。軽く動いただけでいつもより遥かに体力が消費している。夏だし!といきがってクマリTの上にアロハを着ていたのだが気付くと緑のクマリTは汗でびしょびしょになっていて慌ててアロハを脱いだ。
ベルリン少女ハート、は前体制の時通っていた。現体制も何度か見ている。が、ベルハーの代表曲であり、地下楽曲派のアンセムとも呼ぶべき「asthma」を封印状態だったのでどこかしらフラストレーションが溜まっていたのも事実。そんな「asthma」が遂にTIFで解禁。余り推しグループ以外では前に行かないようにしていたのだが、ベルハーだけは「asthma」目的で前に出てサークルを回った。屋外で聴く「asthma」はそれだけで最高であった。
個人的には「お目当て前の」興奮のるつぼは、Ringwanderungだった。普段はラストやラスト一個前位で上着を脱ぎだすみょんちゃんが既に一曲目の「パルス」で脱いだ時、「あ、これ本気のやつじゃん」と。あきなちゃんが「それ、振りあってるの?」って位一人だけ高く足をあげている。全てのグループを見ていた訳では無いのであくまでも主観になるが、それまでのグループでは前方には沸きたいオタクが集結する一方で後方はのんびり、もしくは興味なさげに見ているオタクが多かった中で、リンワンではほぼ全ての客席が立ち上がり、腕を挙げていた。物凄い盛り上がりで、「ラストサマーデイドリーム」では感極まったのかみょんちゃんの声が震え声になり、後方から見ていると泣きながら絶唱しているように見えた。それはまるで解散ライブか?という位の圧倒的なパフォーマンスだった。
クマリデパートの特典会を終え、tip Toe.のステージへと向かう。
1曲目は「マイ・ロング・プロローグ」からスタートした。目の前の2人組はどうやらその後の出番の「かすみ草とステラ」のオタクらしいのだが、やたらノっていた。改めて2期のロックテイストの楽曲は初見にも乗りやすい、と気付かされる。
2曲目は「クロックワークスパークル」。1曲目と打って変わってtip Toe.のキュートな魅力に溢れる楽曲だ。恥ずかしながら何度聞いても「かんぱーい」のタイミングを逃してしまうのだが…。
3曲目はTIFで初お披露目された最新楽曲「シンガーソングライター」。まだそこまで回数を聴いていないのだが、今年披露されたtip Toe.楽曲で一番好きだ。これは振りコピが分かりやすくて楽しい。
4曲目は「僕たちは息をする」。また前曲から打って変わって、激しい楽曲だ。何となく去年の5月の事を思い出した。
今でもそうなのだが、僕は基本的に、推し以外そこまで興味が無い。なんなら見ないし、見たくない。tipToe.は1期は何度か行ったし、その後未波あいり、宮園ゆうか、日野あみ、3人時代の2期を見てはいる。ただその時点では特に興味を持てなかった。
福島で初めて現体制の2期tipを見た瞬間「あれ?こんなに激アツグループだったっけ?」と驚いた。1期の僕のtip Toe.のイメージはもっと醒めたイメージだった。2期にはステージから胸ぐらを掴みに来るようなそんな必死さに目が釘付けになった。数々のフェスで「興味ない」グループを目にしてきたが、初見で胸倉を掴まれたグループは、2019年のTIFのガンダム前で見た「新しい学校のリーダーズ」と2022年エクストロメ福島の「tip Toe.」位だ。
それ以来tipToe.は「興味無いグループ」から「被ったら見るグループ」へ、そしてその後「通うグループ」へと変容した。
それなりに知名度のあるグループというのは得てして「何曲か」は好きな曲がある。但し、例えば「ポップな楽曲は良い」一方で曲調が変わった瞬間「ん-、これは微妙」となる事が多い。
そして去年の5月のtip Toe.はまだ曲名すら殆ど知らなかったが「どれも良い」と思えた。今では自分の中で定番となった「僕たちを息をする」を聴きながら、少しだけ「あの日」を思い出した。
続いて5曲目は「シャッターチャンス」が来た。会場のどこかで見ている友達に心の中で「ほらね」とほくそ笑んだ。何度見ても、めみたその出だしに顔がニヤケてしまう。純粋に楽しいのだ。
ラストは「星降る夜、君とダンスを」だった。やはり一期からの人気曲だからか、「シャッターチャンス」で沸いた会場が更にもう一段階、いや三段階位ギアチェンジして盛り上がっていく。まだ星は出る前であったが屋外で聴く、「星降る」は新宿LOFTとも渋谷o-nestとも違う、解放感のある気持ちの良い「ダンス」だった。普段跳ばない僕もいても立っても居られずリミッターを外してひたすら跳びまくった。
この日のラストはMigma shelterだった。ミシェルが終わると主催のこばけんさんが、マイクで「本日はありがとうございました。また福島でお会いしましょう」と言った。
道中「今年の福島に来る理由がない」と言っていた友達が、ミシェルでへとへとになりながら夜空に向かって「また来ます!」と叫んだ。僕はそれを横で見てゲラゲラと笑った。
あと何日猛暑が続くのだろう?
少なくとも8月中はまだまだ続きそうだ。
多分、9月のどこかで、ふっと涼しくなるのだろう。今年の猛暑なんて無かったかのように。
帰りの車で友達セレクションのアイドル楽曲をひたすら流していた。アクビオタクの友達がかけるプレイリストは耳馴染みのない曲ばかりだった。間もなく目的地に着こうとした時流れた曲に耳を奪われ慌てて聞いた。
「これ誰のなんて曲?」
「RAYのレジグナチオンです」
「なるほど」
♪やるせないなと君が笑う
僕もつられて無意味に笑う
君の全てがそこにある
だけど全ては夢に消える
全てが輝いている
輝いている 輝いている
君の声 忘れ難き
今を生きる 今をただ生きているだけ♪
by RAY 「レジグナチオン」
おしまい