横江公美『第五の権力 アメリカのシンクタンク』 文春新書 2004年
アメリカのシンクタンク事情を紹介する本。
日本人がアメリカに行くと、
「シンクタンクジャンキー」(シンクタンクで働きたくなり、自ら作りたくなる)になってしまうほど、
アメリカにおいてシンクタンクが盛んである。(7頁)
具体的に、6大シンクタンクとして、
ヘリテージ財団・エンタープライズ公共政策研究所(AEI)・ブルッキングス研究所・
ケイトー研究所・外交問題評議会・CSIS
を紹介している。
一方、日本では、①「シンクタンクに資金を提供する大富豪や資産家が存在しない」、
「寄付という行為自体が一般的でない」ため、資金が潤沢ではなく、
②「ポリティカルアポイントメントが定着していない」ため、
人材供給源としての役割を期待されていないこと、
③「情報公開の遅れから、霞ヶ関以外で政策研究ができるような土壌が出来ていない」
という理由のため、シンクタンクの「影響力や認知度は高いとは言えない。」(222,223頁)
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本書において興味深かったのは、シンクタンクが巨大化した理由として、
シンクタンク型ビジネスモデルの構築に成功したことを挙げている。(137頁)
シンクタンクの浮沈を握るのは「研究」「資金」「広報」「人材」であり、
これらを最大限に生かすような戦略が求められる。
資金集めの基礎となるのは、①「個人、企業からの寄付」②「財団からの研究に対する助成金」
③「委託研究、出版、会場の貸し出しといった商売(141頁)がある。
たとえば、寄付を集めるために、会員を募る。
そして、会員特典として、ニューズレターの受け取り、
レポートの購読、会議(イベント)への参加がある。
特別会員となると、さらに特典が増える。まるでFCビジネスのようだ。
また、助成金を勝ち取るには、今後重要となる政策課題を見極め、
積極的に研究していくことが必要となる。
変わったビジネスとしては、研究員としての受け入れがある。
すなわち、外部の企業・政府の人材を、一定の派遣料をもらい(年間4万ドル:2004年)、
その代わりに、シンクタンクの中に、席を用意するのである。
アメリカの政策の中枢にかかわりを持ちたい企業・外国政府にとっては
大きなメリットとなるそうだ。(155頁)
以上の基礎となるシンクタンク自体の評判を高めるために、
マスメディアに取り上げられる、提言内容が政策に反映されることも重要である。
このようなビジネス化に対して、企業や政権に対する単なる迎合との批判はあるが、
政策形成の上で、一定の理論的な裏づけ等は必要であり、最終的な判断は国会議員、
ひいては選挙を通じて国民がなすことであるので、多少は色がついた政策になってしまうのは
やむをえないのではないだろうか。必要となってくるのは、シンクタンクに対するリテラシーを持つことであり、
既得権を新たに得るため、守るための政策など、バランスの取れていない政策が出てきたときに、
しっかりと、根拠をもって議論できるような土壌が重要なのではないだろうか。
日本においても、「シンクタンク」という、高度に知的で、外部からの客観的な機関が
成長することを期待する。
(実現は難しいだろうが、知識層・財界が積極的にシンクタンクを作ること、個人レベルでも
シンクタンクの重要性を認識し、寄付等が集まりやすい環境を作ることが重要なのではないかと考える。)