あれはいつだったか。
中学生だったか、高校生だったか。
あの頃読んだ黒柳徹子氏の本の冒頭にこう書いてあった。
『神様は、どんな人間にも、必ず、とび抜けた才能を一つ与えて下さっている。
でも、たいがいの場合、人間は、その才能に気づかず、違った職業を選んで
一生を終わってしまう。
アインシュタインとかピカソ、といった人達は、
うまく才能と、ぶつかったケースだ.....』
女学生だった彼女は、この話に自分の生きる道を見つけた思いがしたという。
次の日から、自分の才能を見つけるために、
手当たり次第、様々なことを試してみることにしたそうだ。
この文を読んだ時の衝撃は、今でもよく覚えている。
文字通り、ハッとした。
誰かに言われて、こんなに勇気づけられる言葉もそうはない。
現在、中3の息子が高校に行くことにした理由。
その1 働きたくないから。
その2 友達がみんな行くから。
こんなところらしい。
ただ、この男。
“高校で○○したいから”という積極的な理由ではなく、
消去法的な理由で進学を決めたものだから、
高校に行くことに絶対的な意義や意味を見い出せていないんだろうな、きっと。
実際、去年こう言っていた。
「ねえ、何のために高校行くん?俺、よう分からん。」
そうよね。よう分からんよね。母ちゃんもそうやった。
「俺、勉強嫌いやし。」
そうよね。嫌いよね。母ちゃんもそうそう。
つまるところ、私が過去に高校に行った理由は、
息子が高校に行くことにした理由と同じだった。
世の中には、学歴が必要な人と、そうじゃない人がいる。
世の中には、学歴を必要とする職業と、そうじゃない職業があるからだ。
学歴を糧や武器にして生きていく人。
何かの理由で望んだ学歴を得られなかった人。
端から学歴を必要とせず、自分の力を頼りに生きていく人。
息子がどのタイプなのか、今の私には分からない。
恐らく息子本人も、今はまだ分からないんじゃないだろうか。
だからこそ、私は思う。
高校に行っておくのもいいんじゃないかと。
何でも試してみたらいいんじゃない? まだ15才なんだし。
何が好きで、何に向いてるかなんて試してみなきゃ分からんわい。
高校に行ってみて、もしどうしても自分には向かないと思ったら、
その時はその時のこと。どうするか一緒に考えようじゃないか。
私がとても尊敬している人は中卒だ。高校は中退。
社会的にとても成功しているし、何より人柄が素晴らしい。
ただこの人は、「自分に学歴は必要ない」と、しっかり自分で見極められた人だ。
恐らく、学歴がないことを揶揄されても屁でもないどころか、
逆にその相手を言い負かすことができるであろう教養がある。
一方で、作家・邱永漢氏のこの発言も、実に的を得ていると思う。
「大学に行く理由は2つある。人脈を築くことと、
学歴コンプレックスを払拭するためだ。」
息子。
学校を卒業したから偉いというわけでもない。
学校を卒業したという事実があるだけだ。
ただ、世の中には “世間” という名のエネルギーがある。
両側面があるこのエネルギーは、プラスに働いているときには、
『渡る世間に鬼はなし』という、人情味あふれる素晴らしいエネルギー体だが、
それがマイナスに働くときは、
人々の不安や嫉妬心、射幸心を餌にしてのさばる、言ってみれば、
ドラゴンボールに出てくる元気玉の逆のようなものになってしまう。
人々のニーズによって生み出され、便利よく使われているうちに
あたかも実体があるかのように我が物顔で世の中を闊歩し始め、
そのうち膨れ上がって爆発。空気中に散漫し、
しまいには人間の口を介して声まで放つようになった、あれだ。
「おまえなんか中卒のくせに。」
「ろくに高校も出てないくせに。」
こういうエネルギーを跳ね返せるか?
こういう相手に対峙する力と教養を自力で積む覚悟があるか?
「どうせ俺なんか学歴ないし...」
何かに挫折した時に、学歴を言い訳にして、
「ご飯が喉を通らない」
とか
「眠れない」
なんてこと言わないだろうな?
息子。
母ちゃんは、あんたが高校に行っても行かなくても、どっちでもいい。
例えば、あんたが中学校を卒業して働くのでもいいと思う。
日々働く中で、もし「やっぱり高校に行きたい」と思うことがあれば、
それから行ってもちっとも遅くはない。
きっとその時は、
「ねえ、何のために高校行くん?俺、よう分からん。」
なんてことはないだろうし。
そっちの方がよっぽど充実した高校生活が送れるかも。
息子。
あんたが4月に高校生になろうがなるまいが。
神様が与えて下さっているであろう、とび抜けた才能を一つ。
必死になって探せ。
これは母ちゃんと競争ね。母ちゃんもまだ夢の途中だから。
息子。
最後に、母ちゃんが心底ハッとした邱永漢氏の言葉を贈ろう。
「天職というものは、血眼になって探すものだ。」
この先の人生で、“たまたま” “偶然に見つかる”
なんてことを期待しちゃいけない。
息子。
母ちゃんは応援してるぞ。
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