現地ではホームステイしていた。
私がお世話になっていたお宅には、お父さんとお母さんが2人で暮らしていたが、
結婚した3人の子供たちは、みんな割と近くに住んでいたから、
色々な人がよく訪ねてくる賑やかな家庭だった。
お父さんの職業は大工さん。
朝早くからよく働く人だった。
私が7時に起き出してごはんを食べる頃には、もういなかった。
6時頃には出かけていたように思う。
お母さんの職業は不動産の仲介業。エージェントだ。
事務所に所属していたけれど、
エージェントはそれぞれ自分で顧客を持っている。
お母さんが自分の車にお客さんを乗せて物件を案内する際、
一緒に連れて行ってもらったこともあった。
ある日、お母さんがこう言ったことがある。
「私はね、もう何年もずっと事務所で売り上げNO.1なのよ。」
へえ! お母さんやるな!
事務所に何人いるのか知らなかったが、
どんな職場であれ、何年もトップをキープしてるというのはすごい。
しかも、このお母さん。
働き詰めというわけではなかった。
確かにお父さん同様よく働く人だったけど、
夏には1ヶ月かそれ以上の休暇を取って、
国内外を問わず旅行していた。
実際、私はお母さんと二人で
ワシントン州からペンシルバニア州まで車でアメリカを横断したのだ。
日本に帰国しなければならなかった私は、
ペンシルバニアからワシントン州に戻って帰国したけれど、
お母さんはその後、飛行機で来たお父さんと合流して
ニューヨークまでいったらしい。
もちろん、帰りも車でアメリカを横断して帰ってくる。
そんな優雅な休暇を夫婦二人で楽しみながらも、セールスでNO.1だったのだ。
今思えば、あの頃の私は無欲だった。
16歳だったし、親のすねをかじっていたから仕方がないが。
働いた経験もアルバイトを少ししたことがある程度だった。
もし、今の私がお母さんから同じ話を聞いたら、
質問攻めにするだろう。
物件案内も一緒に連れて行ってもらえたら、
最初から最後まで、お母さんがどんなふうにお客さんを案内するのか、
何をどんなふうに言うのかを、注意深く観察しただろうと思う。
別に不動産の仲介業に興味があるわけじゃない。
でも、ずっとトップの座にいる人の仕事を間近で見る機会なんて
そうそうあるわけじゃない。学んで活かせることはたくさんあるはずだ。
まあ。そんな間抜けなあの頃の私でも、これくらいはお母さんに訊いた。
「ねえ。成功の秘訣は何?」
あの時のお母さんの言葉。
20年以上経った今でもはっきり覚えている。
「そうね。私はね、自分だったら買わないと思う物件は
お客さんに売らないのよ。」
私は心底たまげた。驚いた。
このセリフ。
もしセールスの成績が底辺をさまよっている人が言おうものなら、
「けっ。そんなこと言ってっから、いつまでもビリなんじゃないの?」
あるいは
「商売と屏風は曲げなきゃ立たないって言葉を知らんのか。
きれいごと言ってて、家賃やら生活費やら払えんのか?え?」
と突っ込まれそうだが、これは何年もセールスのトップに
君臨する人が放ったセリフだ。
しかも、このセリフの後、お母さんは更なる爆弾を落とした。
「私のお客さんの中にはね、私を信頼してくれて、
物件を見ないで買う人もいるのよ。」
は?見ないで買う?不動産を?
一体いくらの物件なんだ。3000円くらいなのか?
犬小屋とかじゃなくて?
私なんて、ケーキひとつでも見て買いたいわ。
信頼の力は凄まじい。恐ろしいほど強力だ。
それがプラスに働いても。マイナスに働いても。
以前、こんなことがあった。
ある人から教材を買った。
その教材は、様々な特典がついていて、それが魅力で買った。
価格は1万円。お得だと思った。
特典を得るには、教材を購入後、販売者に連絡するシステムになっていた。
スカイプでチャットを始めると、販売者はこう書き放った。
1万円であれだけの特典はつけられないんで...云々
私は自分の目を疑った。
あんた。それは立派な詐欺だと思うけど?
自覚がないとは、神をも恐れぬバカ野郎だな。
どうもその教材は値下げしたらしい。
だから、教材の内容を考えたら特典がなくても十分お得でしょ?
ということらしい。
なるほど。ごもっとも。
でもな。だったらそう書けよ。
それが義務だろ。違うか?
その一文で、そいつに関わるのは一切やめようと決めた。
これからも僕とコンタクトをちゃんと取ってください。
は?何のために?訴える準備でもしろってか?
とにかく、こいつと関わるのは時間のムダ。
そう思ったから無視した。
この特典詐欺は、お母さんとは真逆のケースだろう。
私はこの一件の後、こいつの仲間とやらのメルマガも即解除した。
類は友を呼ぶ。
この言葉には、少なからず信憑性がある。
また、誰が言ったんだったか、こんな言葉もある。
君がどんな人間かは、君の友達を見ればわかる。
言い得て妙。

こたつの一番いい場所で、あられもない姿でくつろぐの図
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