小説です

 

 

 

 

 

ガゼルの風 (終わりと はじまりの時)

 

 

作者 キラミラ

 

 

 

動きやすい 薄い水色のワンピースは

普段は侍女が着る服だ

それを アンジオール姫は 変装して着ているものの

歩き方が どこか 優雅で

なんとなく高貴な人だと醸し出してしまっている

 

隠れるように そそくさと城を抜け出すものの

 

やはり 自分の取るべき行動ではないのだと 

城の門前から クルリと Uターンして中庭を通りぬける

 

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(画像お借りしました)

 

走る音が響き渡る

普段は 大勢の人の姿や 人の声の雑音で溢れかえる城の回廊が

今は 静まり返って

足音が 不気味なほど こだまする

 

アンジオール姫は

祈った

 

「どうか 結婚式が まだ 行われていませんように・・」

 

今さら

アンジオール姫の替え玉として 花嫁衣装を着ているのが 乳姉妹のイーリアだと わかって 

前代未聞の王宮の 大スキャンダルと後世まで 残る醜態であったとしても

 

アンジオールは 自分の責任をはたすのが 本来の生き方だと 悟った

 

王宮の石碑の暗号を 誰かにもらすこともしないと 誓ったとしても

誰も信じてくれないだろう

地下の牢獄のような暮らしになろうとしても

 

自分の運命を 受け入れようと思った

 

 

悲劇のヒロインとして今まで、ただ嘆いていた自分、目立たないように、隠れるような生き方を やめようと思った

 

城の 結婚式場は

『王家の間』 と言われる

神聖な 場所

 

本来は 龍族の王家の者しか入ることができない場所も

 

新しい王の誕生式典と重ねて

他国からの来賓者も 多く 参列されている

 

 

その 長い廊下の先に 式典会場が ある

 

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(画像お借りしました)

 

 

アンジオール姫は 息を整えて

重たいドアを 開く

 

ギギギィーと鈍い音が響き渡る

 

 

なんだか

嫌な予感で

体が総毛立つ

 

ここから

立ち入るなとばかりに

空気がフリーズした

 

 目を細めて周りを見渡す

目の前にみえる光景に

 

愕然とした

 

 

 

 

 

 

悲鳴をあげて 逃げ惑う人々の惨劇

 

血なまぐさい匂いが鼻をつく

 

結界を張っていた

魔法師たちが バタバタと 金の甲冑をきた 男に 槍でさされていく

 

右大臣が

「約束が 違うだろう!」と

わめきながら 逃げようとする後ろから

 

まったく 聞く耳も持たずに

右大臣の首を ハネていく

 

 

アンジオール姫になりすましたイーリアに

金の甲冑の男は 何かを話している

 

周りの悲鳴で 聞き取れない

 

その瞬間

金の甲冑の男は アンジオール姫になりすましている イーリアの胸に

剣で 一突きした

 

真っ白な ウエディングドレスが みるみる真っ赤に染まっていく

 倒れこんでいくイーリアがスローモーションでみえた

 

 

「イーリア!!」と 思わず叫ぶアンジオール姫に 

 

金の甲冑の男は

周りの者が 床に倒れ込んでいるのを 確認して

 

頭の甲冑を 脱いでみせた

 

長い エメラルドグリーンの髪が

パラリと 肩に 落ちてくる

 

『母様と同じ エメラルドグリーンの髪・・』

と お会いしたことがない母の面影をみた

 

瞬殺する スピートと 流れるような剣の使い手は

ゴツゴツした 男のイメージとは 裏腹に

 

横顔のラインから キャシャな真っ白な肌には 似つかわしくないような 端正な顔立ちが 振りかえる

 

 

アンジオール姫は

長い 間

その顔を 見ていた

 

この残虐な惨事を起こした張本人が

息一つ乱れることなく

無表情に こちらをみている

 

 

なぜ?私が目の前にいるのだろう・・・

アンジオール姫は

鏡をみているような気持ちになった

 

『こんな 甲冑を着たことなんてない・・』

 

夢か幻か

アンジオール姫と同じ容姿の男が 立っている

 

 

その男と

目と目を合わせた瞬間

お互いが わかった

 

容姿が似てるからだとか 雰囲気が似てるからだといかではない

 

同じ魂から 2つに別れた 自分の片割れだと 

魂の叫びから一瞬でお互いを悟ったのだ

 

 

 

その瞬間 我に返ったアンジオール姫の目に 真っ先に飛び込んできたのが

イーリアの真っ白なドレスが 胸元が真っ赤に染まって 倒れ込んでいる姿だった

 

何かが ショートした音が響き渡る

真っ赤な目がギラリと鈍い光を放つ

アンジオール姫の目が変わった 

ギラギラと 炎のように燃えだしたかと思った と同時に

 

「キャーーーーー・・・・・・・」

と 高い 高い悲鳴が部屋中に こだまする

 

甲高い キーーーーーの声が頭蓋骨を振動させていく

 

超音波のような その高い悲鳴に 建物が小刻みに揺れている

数秒たつと建物のヒビが入っていた

 

 

アンジオール姫の悲鳴は

現実を受け入れない恐怖が 溢れ出している

恐怖は 狂気になる

 

狂気は怒りの攻撃に変わる

 

 

金の甲冑の部下の一人と思われる女が

「冥王 これ以上ここに留まっては 後々面倒なことになります

いったん 退却しましょう

私達の 目的は 果たしたのですから」

 

耳を塞いでも 頭蓋骨が振動して 頭を抱えながら 訴えている

 

冥王と呼ばれた その金の甲冑の男は

大きなため息を 吐きながら

 

アンジオールに

 

「我は 終わりを告げる者なり

そして

我が妹よ はじまりを告げる者なり」

 

と 言い残して

その場を立ち去った

 

長い 長い悲鳴は

細かい振動から音波が揺れて 超音波から うねりだした空間を埋め尽くしていく

 

壁や柱がひび割れて壊れていく

大きな 城の 柱が 今にも倒れそうになっている

 

 

赤い目

たびたび 竜族の王家の何代かに一人

龍の眼 という

赤い目になり 龍族の 血族のDNAの開花を 現すモノがいると言われていた

 

魔族とも言われて

膨大な力を身につけると言われていた

大きな時代の節目に出現すると言われているだけに、凶相と忌みきらわれている

 

それが

こんな悲劇な出来事が あって 開眼するのも皮肉だとしか言えない

 

いや

この惨事があってこそ本能が自己防衛で 眠っていた能力を開花させたに違いない

 

アンジオールが我に返ると

すぐさまに

イーリアの元に 駆け寄った

 

かすかだけれど 息がある

 

「誰か 助けて!」

「お願い 助けて!」

 

声にならない言葉に

横に倒れ込んでいたイーリアの父親が目を覚ました 

イーリアの応急処置の魔法陣をくんで 医療魔法で施術をしていく

 

そして イーリアの頬が赤くなっていくのをみて 安堵した

 

アンジオール姫は イーリアの手を しっかりと 握りながら

「私の身代わりに、ごめんなさい」

と何度も 何度も 言葉を 繰り返している

 

 

「アンジオール姫になるのは おとなしいフリをするのが とても大変でした」

と 口元が笑ったイーリアの 声が しっかりしていることに

アンジオール姫は 安心したのか 涙が溢れてきた

 

 

イーリアの母親でもあり アンジオール姫の乳母に当たるシアスが真っ青な顔で アンジオール姫の目の前にいる

 

「シアスお前は無事だったのですね」

と 泣きそうな喜びでで抱きしめた

 

ぎゅって強く抱きしめる

いつもの違う 感覚から数秒たって離れる

 

キョトンとしてシアスの顔をみると

 

全身に 真っ赤な 血が ついている

 

「どうしたの?おまえ 怪我でもしてるの?」

と 話してる途中に

アンジオールは自分の胸元の違和感に

手を触れる

 

ぬるっとしたべたついた手が真赤になっている

よくみると

自分の胸に短剣が 刺さっている

 

「なぜ?おまえが私を・・・」と つぶやき

バタンと 倒れ込むアンジオール姫を

 

床に 同じように 倒れ込んでいるイーリアが

 

真っ赤に返り血をあびている母親を 為す術もなく みているしかない

真相を 聞こうと 口を開けた瞬間 睡魔が襲って 床に倒れ込んだ

 

「なぜ 母上が・・」と意識が遠くなっていく

 

 

・・・

・・・

 

気づいた時には

城からずいぶん離れた

古い神殿前に二人は 倒れこんでいた

 

目を開けて、しばらく何が起こったのが思いだす

 

全ての記憶がおぼろげに思い出した瞬間

体を動かし、手で確認する

 

傷口はふさがっている 痛さはない

体の痛さはなくなっても

心の痛さは 一生残るの違いない

 

イーリアは

まだ 横たわっているアンジオール姫の傷口も ほぼ完治してることを 確認した

 

「なぜ・・・

母上が 姫を・・・」

 

と 思い出した途端

 

城のみんなは? 母上は? 父上は!!?

 

と 城の方角を 確認するために

高台に向かって走っていく

 

今まで当たり前の風景が

忽然と なくなっていた

 

 

遠くからでも よく見える 城が

なぜか みえなくなっている

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(画像お借りしました)

 

 

みえなくなっているのではない・・・

その姿は なくなっているのだ

 

消滅してるのだと

 

気づくのにずいぶん時間がかかった

 

イーリアの中で、何が なんだか わからずに

頭が混乱している

 

ずいぶん落ち着いて 状況を把握するのに まだ 時間がかかりそうだ

 

アンジオール姫の元にもどろうとすると

遠くに

姫に覆いかぶさるような人影がみえた

 

鼓動が 早くなり

バクバクしてきた

 

敵か味方か?

誰を信じていいのか わからない

 

その人影に見覚えがある

 

「あ・・・あなたは・・・・」

イーリアは 複雑な気持ちになった

 

 

つづく