著者: 高村 薫

 大ヒットミステリー本を映画化する難しさを改めて感じさせてくれた一本でした。

「レディジョーカー」の前にミステリーなどの原作を映画化することについて一言書きたいと思います。

このタイプの映画は原作を読んでる人とそうでない人にわかれます。
読んでいる人は、ラストも犯人も知っているわけですから、予定調和の中でどれだけ映像的演出がされているかを楽しむわけです。これではどれだけ衝撃的などんでんがえしが待っていても楽しさは半減だと思います。さらに一冊の本を映画化するにあたって、すべての要素を2時間に詰め込むことは不可能なので、かなり原作をシェイプアップすることになります。これが原作の奥深さが描けていないと指摘される原因になるのです。

読んでない人は、犯人探しやミステリーとして楽しむことができるでしょう。しかしそもそも映画化を目指して作られた原作ではないので、脚本に描けない部分が多々でてきます。そうすると原作から魂がするりと抜け落ち、原作のストーリー展開をどるだけの映画になってしまいがちです。そうすると説明不足な面がどんどんと露呈し、原作を読んでいない人からは、人物が描けていないうすっぺらな映画という評価をうけてしまうのです。ここは脚本家の腕の見せ所なのですが、うまくいっていないのが現状ではないでしょうか。

さて、それではどうすればいいのでしょう。
私の個人的な見解を言わせてもらえば、「原作など忘れてしまえばいい」これに限ると思います。原作の要素をすべて映画にしようとするから無理が出るわけですから、原作のテイストだけいただいて、後は「映画」にしてしまえばいいのです。原作から映画的飛躍をするのです。少し古い映画ですが松田優作主演の「野獣死すべし」はその点で大成功を収めた映画といえるでしょう。原作からどんどんと逸脱してどこまでもつっぱしる松田優作に感動させられました。しかし原作を無視して映画的にも失敗すると「模倣犯」のように目も当てられない惨事になるので注意が必要です。

リスクを負って映画的成功を目指すか、無難に原作を映画化するか、私は映画制作者の方々に前者であってほしいと願います。

それでは本作「レディジョーカー」について。
若干ネタバレしていますが気にする映画でもないと思います。
私は原作を読んでいません。
まったくひどい映画でした。犯人が行動を起こすに満足たる動機が描けていないし、誰からも怒りというものを感じません。犯人にも被害者側にもまったく緊迫感のない誘拐劇に、ろくに捜査もしない警察。そもそもレディジョーカー命名の理由が最後まで明かされないし、レディ自体ほとんど存在意義のない脇役としてしか描かれていません。レディは原作ではきっと重要な役だと勝手に推測するしかありません。また、20億というお金になんの執着のない犯人と被害者にも?マークの連発です。誘拐劇の一番の見せ場である、現金受け渡しのシーンをまったく描かないで、受け取ったことにした映画を初めて見ました。「とりあえず黒澤監督の「天国と地獄」を百回観ろ!」といいたくなりました。
こうして書いてみるとやはり原作から抜け落ちている部分で、映画についていけていませんね。部落、在日、労働争議、養護問題などのテーマはあるのでしょうけが、それらの深みを一切感じられない映画でした。
原作ファンの方なら楽しめるかといえば、そうでもないと思います。平山監督のまっとうかつ一切奇をてらわない演出が、うすっぺらな脚本をそのまま映画化しているので、凡庸でテーマが描ききれていない映画になっています。
私は観てる途中で、話が戻っているのか進んでいるのかも、わからなくなっていました。
この映画の中での救いといえば、三池監督の映画に出演していた吉川晃司が、アイドルをすっかり脱却しピカロへと成長したことを確認できたことと、「1億人の心をつかむ男」新人発掘オーディションで大賞を受賞した徳重聡のみずみずしい演技が見れたことでしょうか。