吾輩は赤ちゃんである。名前はまだ無い。
どこで生れたかは見当がついている。何でも分娩室という所でオギャーオギャー泣いていた事だけは記憶している。吾輩はここで始めて人間というものを見た。しかもあとで聞くとそれは親という人間で一番強い関係であったそうだ。この親というのは時々我輩を抱えては変な顔をするという話である。しかしその当時は何という考もなかったから別段恐しいとも思わなかった。ただ彼の掌に載せられてスーと持ち上げられた時何だかフワフワした感じがあったばかりである。
掌の上で少し落ちついて親の顔を見たのがいわゆる人間というものの見始であろう。この時妙なものだと思った感じが今でも残っている。第一今まで真っ暗な中で過ごし今初めて光というものを見たのだ。その後人間にもだいぶ逢ったが真面目な顔をするものには一度も出会わした事がない。目が垂れてなんとも言われぬ滑稽な顔をするものばかりである。そうして口という穴の中から時々ベロベロと変なものが出る。どうも可笑しくて実に弱った。これが我輩を喜ばす為であった事はようやくこの頃知った。
この親の腕の中でしばらくはよい心持に眠っておったが、しばらくすると指でコチョコチョとちょっかいをし始めた。指が動くのか自分だけが動くのか分からないがギュッと握り返してやった。するとどうだ。さっきまでの変な顔がもっと変な顔になった。
「ありがとう」
我輩はなんだか嬉しくなった。
女の子が誕生しました。
なんもいえねぇ・・・
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