家に入るや俺は早速リサーチにかかった。
リビングで2時間ドラマ鑑賞中の母親に話し掛ける。
俺の母親と光太郎の母親は仲がいいので、何か知っているかもしれない。
「母さん。
さっき玄関のとこで光太郎に会ったら、なんか大事なお客様が来るからって言ってたんだけど…。」
なるべく何でもないような振りで問いかけると、母親はせんべいをパリパリやりながら振り返りもせずに答えた。
「あー、それ。あんたも行くから。」
「…は?」
意味が分からん!
「あんたとー、パパとー、私と。むこう家族3人で今日は晩御飯一緒に食べるよ。」
「そうなんだ。久し振りでいいけど、なんでわざわざ大事なお客様なんて言い方したんだろ。
別に一緒にメシくらいそんな珍しくもないじゃん。」
「行けば分かるわよ~。行けば。
パパももうすぐ帰って来るから、そしたら出掛けましょ。」
パリパリを飲み込んでやっと振り返った母親は意味深に微笑んだ。
今年たぶん40歳になる母親は、世間的には若く見える方だろう。
俺は顔は母親似で背格好は父親に似ている。
「あんたも着替えておいで?」
何だよ。俺だけ茅の外ってわけ?
ブリブリ怒りながら、制服を脱いでジーンズとTシャツに着替えていると、丁度父親の帰って来る音がした。
「あらあらあら、キヨちゃんたらちょっと見ない間にまた背が伸びて男前になって~!
うちの光太郎なんてもう高校時代からちっとも伸びなくてねえ~!
あ、お寿司、取って食べてね。
もう久し振りにみんなでご飯なんて嬉しい!
やだ私ってば話に夢中でお箸出してなかったわ!
ちょっと待っててね!」
光太郎ん家のおばさんは、おばさんというのが悪いと思うくらい若い。
そしていつもマシンガントーク。
口をはさむタイミングが無い。
対称的におじさんは無口でいつも静かな印象だ。
愛想が無い訳じゃなくて、ニコニコしてるけど無駄口はきかない。
「キヨシ。」
唐突に光太郎から呼び掛けられて、頭の中の考え事から引き戻された。
「何?」
普段着に着替えた光太郎はスーツを着ているよりまだ幼く見える。
大学生だと言っても通りそうだ。
おじさんに似て口数は少ないけど、いつも笑んでいるような口元が柔らかな印象を与えている。
「えー、ンンッ。えと、
今日みんなで集まったのは、大事な話があるからで、だから大事なお客様が来るって言ったんだけど…
あのー、あのさ、んーと…」
言いにくそうにモゴモゴしてしまって光太郎は黙りこんだ。
すると、隣でさっきからソワソワしていた俺の母親が突如として叫んだ。
「私たちっ!
リコンすることにしたからっ!!」
…リコン?
…りこん?
…離婚?
て、え?え?
「り、離婚~っ!?は?はあっ?!
だ、だ、だ、だれと、だ、だれがっ!」
「私と、パパ。」
「はああ?」
「と、光太郎ちゃんのパパと、ママも。」
「は、は、はあああっ?」
「私たちの相談してたらね、光太郎ちゃんのとこもちょうど同じように悩んでたの。
流石わたしたち、仲良しよね。」
ニッコリ。って、ニッコリじゃねえ!
「わけがわからん!」
「え?わかんない?
だから、わたしたち二組ともね…」
母親はキョトン顔でこたえる。
なんでお前がキョトン顔なんだ!パニクってんのは俺だ!
「違う!意味は解る!
な、なんで!なんでかってこと!」
「別に、お互いに嫌いになったとかそういうんじゃないの。
ただ、あんたもここまで大きくなって、あらためて自分達の人生考えた時にね。
まだ今なら何でも出来るって思ったの。
40代でちょうど区切りもいいし。お互いにやりたいことをやるのに気を使いながらは嫌だなって。」
「なんだよ?
そんなのわざわざ離婚しなくても好きにすりゃいいじゃねえか!」
怒鳴った俺を父親が制した。
「キヨシ。ママも私も、光太郎くんのご両親も、まっさらから自由にやりたいことをしたいんだ。
たかが紙一枚のことでも、心の中に枷になる。
お前の親であることは変わらない。
分かってくれ…勝手言ってすまん。」
普段ガタイが良く明るい父親が、真剣に頭を下げてる姿に俺はなんだか何も言えなくなってしまった。
「えーと、お箸…。はい。キヨちゃん。
食べましょ。」
おばさん…
全然空気、読まないね。
でも今は助かる。
乾きかけたマグロを口に放り込んでのみ込んだ。
味なんてわからない。
みんなで黙々と寿司を食べた。
桶が空になるころ、光太郎が口を開いた。
「キヨシ。」
「…ん?」
「こんなときに追い討ちかけるみたいで心苦しいけど、こことキヨシん家、売りに出すらしいから。」
…へ?
「んで、キヨシと俺、一緒に住むから。」
へああ?
へああああ?
クラクラする…クラクラして、意識が…
後から聞いた話によると、俺は漫画みたいに椅子ごと後ろにバッタ~ンと倒れた…らしい。
つづく
リビングで2時間ドラマ鑑賞中の母親に話し掛ける。
俺の母親と光太郎の母親は仲がいいので、何か知っているかもしれない。
「母さん。
さっき玄関のとこで光太郎に会ったら、なんか大事なお客様が来るからって言ってたんだけど…。」
なるべく何でもないような振りで問いかけると、母親はせんべいをパリパリやりながら振り返りもせずに答えた。
「あー、それ。あんたも行くから。」
「…は?」
意味が分からん!
「あんたとー、パパとー、私と。むこう家族3人で今日は晩御飯一緒に食べるよ。」
「そうなんだ。久し振りでいいけど、なんでわざわざ大事なお客様なんて言い方したんだろ。
別に一緒にメシくらいそんな珍しくもないじゃん。」
「行けば分かるわよ~。行けば。
パパももうすぐ帰って来るから、そしたら出掛けましょ。」
パリパリを飲み込んでやっと振り返った母親は意味深に微笑んだ。
今年たぶん40歳になる母親は、世間的には若く見える方だろう。
俺は顔は母親似で背格好は父親に似ている。
「あんたも着替えておいで?」
何だよ。俺だけ茅の外ってわけ?
ブリブリ怒りながら、制服を脱いでジーンズとTシャツに着替えていると、丁度父親の帰って来る音がした。
「あらあらあら、キヨちゃんたらちょっと見ない間にまた背が伸びて男前になって~!
うちの光太郎なんてもう高校時代からちっとも伸びなくてねえ~!
あ、お寿司、取って食べてね。
もう久し振りにみんなでご飯なんて嬉しい!
やだ私ってば話に夢中でお箸出してなかったわ!
ちょっと待っててね!」
光太郎ん家のおばさんは、おばさんというのが悪いと思うくらい若い。
そしていつもマシンガントーク。
口をはさむタイミングが無い。
対称的におじさんは無口でいつも静かな印象だ。
愛想が無い訳じゃなくて、ニコニコしてるけど無駄口はきかない。
「キヨシ。」
唐突に光太郎から呼び掛けられて、頭の中の考え事から引き戻された。
「何?」
普段着に着替えた光太郎はスーツを着ているよりまだ幼く見える。
大学生だと言っても通りそうだ。
おじさんに似て口数は少ないけど、いつも笑んでいるような口元が柔らかな印象を与えている。
「えー、ンンッ。えと、
今日みんなで集まったのは、大事な話があるからで、だから大事なお客様が来るって言ったんだけど…
あのー、あのさ、んーと…」
言いにくそうにモゴモゴしてしまって光太郎は黙りこんだ。
すると、隣でさっきからソワソワしていた俺の母親が突如として叫んだ。
「私たちっ!
リコンすることにしたからっ!!」
…リコン?
…りこん?
…離婚?
て、え?え?
「り、離婚~っ!?は?はあっ?!
だ、だ、だ、だれと、だ、だれがっ!」
「私と、パパ。」
「はああ?」
「と、光太郎ちゃんのパパと、ママも。」
「は、は、はあああっ?」
「私たちの相談してたらね、光太郎ちゃんのとこもちょうど同じように悩んでたの。
流石わたしたち、仲良しよね。」
ニッコリ。って、ニッコリじゃねえ!
「わけがわからん!」
「え?わかんない?
だから、わたしたち二組ともね…」
母親はキョトン顔でこたえる。
なんでお前がキョトン顔なんだ!パニクってんのは俺だ!
「違う!意味は解る!
な、なんで!なんでかってこと!」
「別に、お互いに嫌いになったとかそういうんじゃないの。
ただ、あんたもここまで大きくなって、あらためて自分達の人生考えた時にね。
まだ今なら何でも出来るって思ったの。
40代でちょうど区切りもいいし。お互いにやりたいことをやるのに気を使いながらは嫌だなって。」
「なんだよ?
そんなのわざわざ離婚しなくても好きにすりゃいいじゃねえか!」
怒鳴った俺を父親が制した。
「キヨシ。ママも私も、光太郎くんのご両親も、まっさらから自由にやりたいことをしたいんだ。
たかが紙一枚のことでも、心の中に枷になる。
お前の親であることは変わらない。
分かってくれ…勝手言ってすまん。」
普段ガタイが良く明るい父親が、真剣に頭を下げてる姿に俺はなんだか何も言えなくなってしまった。
「えーと、お箸…。はい。キヨちゃん。
食べましょ。」
おばさん…
全然空気、読まないね。
でも今は助かる。
乾きかけたマグロを口に放り込んでのみ込んだ。
味なんてわからない。
みんなで黙々と寿司を食べた。
桶が空になるころ、光太郎が口を開いた。
「キヨシ。」
「…ん?」
「こんなときに追い討ちかけるみたいで心苦しいけど、こことキヨシん家、売りに出すらしいから。」
…へ?
「んで、キヨシと俺、一緒に住むから。」
へああ?
へああああ?
クラクラする…クラクラして、意識が…
後から聞いた話によると、俺は漫画みたいに椅子ごと後ろにバッタ~ンと倒れた…らしい。
つづく