俺の名前はキヨシ。高校二年。17歳。
恋愛対象 ― 隣家の男。光太郎。31歳。
一回り以上も歳上の男に、俺は絶賛恋してる。
これは例えば鳥類なんかの刷り込みに近い物があるのかもしれないな。
家が隣り同士で仲のよかった母親たちのお陰で、俺はいつもアイツのケツを追っかけてた。いや、比喩的表現で。
俺の初めてはいつもアイツだった。
その一
親以外で初めて俺を抱いたのはアイツ。
(医療関係者は省く)
生後一週間の俺は、中坊のぎこちない腕にしっとりと抱かれた。
その二
俺の初恋もアイツ。
アイツのことを考えると心臓が痛くなるのを病気だと思って一ヶ月悩んだ挙げ句、テレビドラマのヒロインの
「あなたを思うと心臓がぎゅっと痛くなるの。あなたが好きなの。」
という台詞に恋を自覚した。
その日は大好きなカレーライスを掻き込みながら、親に孫の顔を見せてやれない罪悪感で、おませな五歳の俺は泣いた。
その三
初めての精通も 勿論アイツ。
アイツとキスする夢に興奮して起きると、パンツがぺっとり濡れていた。
それからは毎晩毎晩アイツのアイツをピーする妄想でオ○ニーに明け暮れた十二歳の俺。
その四
初めての嫉妬。
すでに社会人だったアイツに初めての彼女を紹介された俺は、滅茶苦茶に嫉妬した。
目で人を殺せるならあの女はすでに息をしていない。
俺はすぐに女の素性を割り出し密かにコンタクトを取り、アイツのスカ○ロ趣味(嘘だけど)を吹き込んだ。
そのお陰でめでたく二人は別れ、社内で変な噂の立ったアイツにはしばらく女が寄り付かなくなった。
ひどい?いやひどくない。
ひどいのは、彼氏よりも突然近づいてきた中坊の言葉を信じた女の方だ。
アイツに俺以外の特別な誰かが出来るなんて許さない。
だって俺の初めてはすべてアイツに捧げたんだから。
だからアイツは俺を選ばなきゃならない。いや、選ぶ義務があると言ってもいい。
そしてお返しに俺はアイツを幸せにするのさ。
それが俺の権利。
永遠に続く二人のラブストーリー…
「フフ…フフフ…ラブストーリー…
ラブ…ヴエエッ!!」
な、なんだっ?!
突然の後頭部への衝撃に、幸せな妄想から現実へと無理矢理引き戻された。
「ウヒャヒャヒャ!
学校帰りに何ニヤニヤしながら歩いてンだよっ!
きめーんだけど!」
目の前の、自分こそニヤニヤしている自称イケメンのクソ野郎は クラスメイトで(認めてないけど)親友の板倉だ。
ジャニーズ系の甘いマスクとは裏腹にかなりの腹黒魔神だが、俺以外に黒い面を出さない為クラスの女子の間では可愛い可愛いともてはやされている。
「何しやがるコノヤロー‼」
唾を飛ばしながら怒鳴り付けた俺に、涼しい顔で板倉は言った。
「あのさー、一般人が見てかな~りヤバイ通報レベルの顔してたから目を冷まさせてやったのよ?俺は!」
「な、そんなにか?」
「ヤバすぎ。知り合いじゃなかったら、絶対目合わせたくないもん。
ニヤニヤしちゃって、例のおっさんと進展でもあった?」
そう、こいつにはすべて知られていた。
なんせ、入学して間もない頃に、俺は知りうるすべてのアイツ情報を記した“アイツノート”を落としてしまい、それを板倉に拾われたのだから。
俺が同性を恋愛対象としていると打ち明けても、板倉は態度を変えなかったし、むしろ自分の腹黒さを俺にさらけ出しお互い様だと言った。
あのときのことを思い出すと、今でも脇の下から変な汗が流れ出すが、そのお陰でアイツのことを話せる友人が出来たんだから、結果オーライだ。
だから俺は板倉に友人一号の称号を与えてやったのだ。板倉も光栄に感じていることだろう。
ちなみにまだ二号はいない。
ああ、話を元に戻そう。
「進展なんてしないよ。
してれば言ってる。」
ぶっきらぼうな俺に板倉は呆れ顔。
「あのさー、もっとガツガツ行かないと進展なんてしないよ?
お前は可愛いJKでも色っぽいオネーサンでもない、180センチごえのゴツゴツした目付きの悪い多少男前なだけの変態男子高生なんだからさあ。」
ングッ!?変態だと?
「むこうノンケなんでしょ?まず意識してもらわないと始まんないじゃん。
もうさ、手っ取り早く告っちゃえば?」
「そんな簡単に出来たらしてるっつーの。
こっちは五歳から自覚して、あっためてあっためてあっためてきてんだから。」
「こじらせてんな~。
ま、むこうがまた彼女でも出来て結婚とか言い出す前に腹くくった方がいんじゃね?」
「…わぁーってるよ。」
「ははっ。幸運を祈るわ。
じゃね。俺今日合コンだから。」
言い残して板倉は走り去った。
「わぁーってるよ。俺だって…。」
カシャン。
自宅に帰りつき、玄関の門に手をかけた時だった。
「あれー、キヨシ。今帰りなの?」
ドキン!心臓が跳ねた。
俺の好きな、柔らかく少しハスキーなアイツの声。
平常心、平常心。
フーっと聞こえないように静かに深呼吸してから振り向いた。
ふわふわな黒髪に、一重だけどキツくない目。
俺よりこぶし一つ分低いのをちょっと気にしている背丈。
やや細身の身体を流行りではないラインのスーツが包み込んでいる。
「おかえり。そっちこそ今なの?早くない?」
お前は俺の帰宅時間を知らないだろうが、俺はお前のスケジュールを大概把握してるんだぜどうだすごいだろう。
どや顔の俺に微笑みながら、光太郎は答えた。
「今日はね、大事なお客様が来るから。」
大事な客。
なんだ?俺の知らない情報に脳内がプチパニックだが。
「じゃ、またね。」
あっさりと家に入って行く光太郎と、取り残される俺。
「リサーチ…要。」
そうだ。俺の知らない光太郎などあってはならない。
ツキトメル ・ゼッタイ!!
つづく
恋愛対象 ― 隣家の男。光太郎。31歳。
一回り以上も歳上の男に、俺は絶賛恋してる。
これは例えば鳥類なんかの刷り込みに近い物があるのかもしれないな。
家が隣り同士で仲のよかった母親たちのお陰で、俺はいつもアイツのケツを追っかけてた。いや、比喩的表現で。
俺の初めてはいつもアイツだった。
その一
親以外で初めて俺を抱いたのはアイツ。
(医療関係者は省く)
生後一週間の俺は、中坊のぎこちない腕にしっとりと抱かれた。
その二
俺の初恋もアイツ。
アイツのことを考えると心臓が痛くなるのを病気だと思って一ヶ月悩んだ挙げ句、テレビドラマのヒロインの
「あなたを思うと心臓がぎゅっと痛くなるの。あなたが好きなの。」
という台詞に恋を自覚した。
その日は大好きなカレーライスを掻き込みながら、親に孫の顔を見せてやれない罪悪感で、おませな五歳の俺は泣いた。
その三
初めての精通も 勿論アイツ。
アイツとキスする夢に興奮して起きると、パンツがぺっとり濡れていた。
それからは毎晩毎晩アイツのアイツをピーする妄想でオ○ニーに明け暮れた十二歳の俺。
その四
初めての嫉妬。
すでに社会人だったアイツに初めての彼女を紹介された俺は、滅茶苦茶に嫉妬した。
目で人を殺せるならあの女はすでに息をしていない。
俺はすぐに女の素性を割り出し密かにコンタクトを取り、アイツのスカ○ロ趣味(嘘だけど)を吹き込んだ。
そのお陰でめでたく二人は別れ、社内で変な噂の立ったアイツにはしばらく女が寄り付かなくなった。
ひどい?いやひどくない。
ひどいのは、彼氏よりも突然近づいてきた中坊の言葉を信じた女の方だ。
アイツに俺以外の特別な誰かが出来るなんて許さない。
だって俺の初めてはすべてアイツに捧げたんだから。
だからアイツは俺を選ばなきゃならない。いや、選ぶ義務があると言ってもいい。
そしてお返しに俺はアイツを幸せにするのさ。
それが俺の権利。
永遠に続く二人のラブストーリー…
「フフ…フフフ…ラブストーリー…
ラブ…ヴエエッ!!」
な、なんだっ?!
突然の後頭部への衝撃に、幸せな妄想から現実へと無理矢理引き戻された。
「ウヒャヒャヒャ!
学校帰りに何ニヤニヤしながら歩いてンだよっ!
きめーんだけど!」
目の前の、自分こそニヤニヤしている自称イケメンのクソ野郎は クラスメイトで(認めてないけど)親友の板倉だ。
ジャニーズ系の甘いマスクとは裏腹にかなりの腹黒魔神だが、俺以外に黒い面を出さない為クラスの女子の間では可愛い可愛いともてはやされている。
「何しやがるコノヤロー‼」
唾を飛ばしながら怒鳴り付けた俺に、涼しい顔で板倉は言った。
「あのさー、一般人が見てかな~りヤバイ通報レベルの顔してたから目を冷まさせてやったのよ?俺は!」
「な、そんなにか?」
「ヤバすぎ。知り合いじゃなかったら、絶対目合わせたくないもん。
ニヤニヤしちゃって、例のおっさんと進展でもあった?」
そう、こいつにはすべて知られていた。
なんせ、入学して間もない頃に、俺は知りうるすべてのアイツ情報を記した“アイツノート”を落としてしまい、それを板倉に拾われたのだから。
俺が同性を恋愛対象としていると打ち明けても、板倉は態度を変えなかったし、むしろ自分の腹黒さを俺にさらけ出しお互い様だと言った。
あのときのことを思い出すと、今でも脇の下から変な汗が流れ出すが、そのお陰でアイツのことを話せる友人が出来たんだから、結果オーライだ。
だから俺は板倉に友人一号の称号を与えてやったのだ。板倉も光栄に感じていることだろう。
ちなみにまだ二号はいない。
ああ、話を元に戻そう。
「進展なんてしないよ。
してれば言ってる。」
ぶっきらぼうな俺に板倉は呆れ顔。
「あのさー、もっとガツガツ行かないと進展なんてしないよ?
お前は可愛いJKでも色っぽいオネーサンでもない、180センチごえのゴツゴツした目付きの悪い多少男前なだけの変態男子高生なんだからさあ。」
ングッ!?変態だと?
「むこうノンケなんでしょ?まず意識してもらわないと始まんないじゃん。
もうさ、手っ取り早く告っちゃえば?」
「そんな簡単に出来たらしてるっつーの。
こっちは五歳から自覚して、あっためてあっためてあっためてきてんだから。」
「こじらせてんな~。
ま、むこうがまた彼女でも出来て結婚とか言い出す前に腹くくった方がいんじゃね?」
「…わぁーってるよ。」
「ははっ。幸運を祈るわ。
じゃね。俺今日合コンだから。」
言い残して板倉は走り去った。
「わぁーってるよ。俺だって…。」
カシャン。
自宅に帰りつき、玄関の門に手をかけた時だった。
「あれー、キヨシ。今帰りなの?」
ドキン!心臓が跳ねた。
俺の好きな、柔らかく少しハスキーなアイツの声。
平常心、平常心。
フーっと聞こえないように静かに深呼吸してから振り向いた。
ふわふわな黒髪に、一重だけどキツくない目。
俺よりこぶし一つ分低いのをちょっと気にしている背丈。
やや細身の身体を流行りではないラインのスーツが包み込んでいる。
「おかえり。そっちこそ今なの?早くない?」
お前は俺の帰宅時間を知らないだろうが、俺はお前のスケジュールを大概把握してるんだぜどうだすごいだろう。
どや顔の俺に微笑みながら、光太郎は答えた。
「今日はね、大事なお客様が来るから。」
大事な客。
なんだ?俺の知らない情報に脳内がプチパニックだが。
「じゃ、またね。」
あっさりと家に入って行く光太郎と、取り残される俺。
「リサーチ…要。」
そうだ。俺の知らない光太郎などあってはならない。
ツキトメル ・ゼッタイ!!
つづく