その、きたろうくんは、何も言わずに、こっちをみている。

わたしは、怖くなり、車内の彼らに、あれがみえているか、きいてみた。

もし、わたしにしか、みえない、いわゆるやばいやつだとしたら、きょうは、車からだれも、おろさず、家まで連行するつもりでいた。
それほどまで、怖いものは苦手だ。

[あっ、きたろうじゃん!あいつ、今日、バイトにきてたんか。]
[ほんと、影薄いから、きづかなかったよな]

大学生は、容赦ない。でも、見た目から、異様さをにじませるかれは、なにか、特別な雰囲気を感じさせた。

というより、わたしが、特徴から、適当に、きたろうって、呼んでみたが、実際に、この長髪の彼は、回りから、きたろうと、よばれているようだ。

当たったうれしさから、すこし、恐怖がゆるんできた。

どうやら、銭湯にいくのが、うらやましくて、一緒にいきたくて、ずっと手をあげているんだろう。

あんなに、自己主張したら、乗せないわけには、いかない。車をとめた。

うれしそうに、こちらをみている。

ドラクエによく、表示される、ワンフレーズだが、いま、ここには、ぴたりと、あてはまる。

というより、さっき、わたしたちが、銭湯の下りをやっているときに、きたろうは、どこかにいたのだろうか?
まったく、記憶にない。
やっぱり、みえちゃいけないグループよりの人なんだろうか?

まあ、ふかくは、考えないでおこう。

いまから、疲れをとるために、銭湯に向かうんだから。

さりげなく、ルームミラーの角度をいじり、きたろうが、視界に入らないようにした。

気になって、みすぎてしまい、前をみなくなるのを、防ぎたかったためだ。