そうだ。二千円を忍ばして置けば、こういったことがあっても、すぐに対応できたはずだ。

今度からは、1万円札ではなく、二千円札を五枚持ち歩くようにすれば、今回もすんなり帰れたはずだ。

だが、大きな問題がある。

そもそも二千円札が、世の中にでまわってない。

ここ最近で、みかけたのが、思い出せないくらい遠い昔のように思われる。
そこまで、みかけない二千円札をわざわざ手に入れる必要があるだろうか。

少なくとも、二度とここには、食べにこない。
スペシャル大盛りという、だれが、こんなんたべるんや?というラーメンを一度に頼んで、しかも、誰もが半分以上残して生き恥を晒した店は、恥ずかしくて、店の前も通れない。
ほら、まわりは、今も私たちをみてるんだろう??

ん。

だれも、まったく気にしてない。そもそも、私たちがそこにいることすら、感じてないくらいに思われる。

いつからだ?いつから、私たちは、興味の対象から、外されていたんだ?

恥ずかしさと、悔しさから、目線をしたにしたまま、テーブルに置かれている店主の、こだわりのラーメンの説明文を、無心に何度も熟読していたからか。
出汁の秘密と、麺の秘密は、暗記するくらいに読みふけっていた。
ただ、もう、ここには、来ないと決めたはず。いまさら、店主のこだわりを知ったところで、何の役にもたたないはずだ。

また、無駄な事をしてしまった。

ブームは、盛り上がるときは、一気に盛り上がるが、ブームが去るときは、ホントに一瞬だと、テレビや雑誌で、いやというほど見てきたじゃないか。

それより、さっき、女子二人からブームが去ったあとの、静けさを身を持って知ったはずなのに、もうすっかり忘れていた。

もう、ここは、たくさんだ!

私の中の張りつめていた、緊張の糸が切れた。

[お勘定!おつりあるから、よろしく!]

言えるじゃないか。まったくむずかしくない。何をこんなに、悩んでいたんだ?

カウンターを境に、差し出す二万円と、店主から返却される四千円。

飲食店で、ごくごく普通に行われているやり取りが行われた。

そこには、ピン札が、どうのこうの。
ラーメンを調理しているのを邪魔しないようにと考えてたことが、アホらしくおもえるほどあっさりしていた。

もちろん、その光景を、見ているものは、皆無。他の客達は、お互いのパートナーと話の花を咲かせていた。