ノワール喜劇。
 ▼爆笑を狙わない、笑えない喜劇はかえって恐怖を呼び起こすのか。美女ロザンナ・アークェットを追いかけたために悪夢に引きずりこまれた男の顛末『アフター・アワーズ』は大傑作だ。主演のグリフィン・ダンが日本では知名度がない分過小評価されている気がするが、スコセッシ作品のなかでもアクがなく、スピード感溢れる編集のキレ味も見事で万人に勧められる逸品と言える。▼突発的に暴走する人間を描いて例えばドン・シーゲル『ボディスナッチャー』的なフィルムノワールの迷宮の構築にも成功してる。主人公と登場人物たちが全く噛み合わず、話が通じない世界なのだ。そんな異世界に主人公を転落させるファムファタールの役割を演じるロザンナ・アークェットがとにかく美し過ぎます。▼自宅に帰りたくても、何故か邪魔され帰れない男の不安の世界。実存主義的恐怖の世界はロマンなどなく無機質である。やっとのことでオフィスにたどり着いた主人公であったが、ラストシーンに至って消え去ってしまったように見えたのは、私の見落としだろうか。▼シュールというか脈絡なく展開する、常軌を逸したこの物語に何の不満さえ沸き上がらないのは不思議だ。出口なしのひたすらな男の迷走が夜の街を異常なまでに発光させ、惹きつけられずにはいられないからだろうか。