DVDジャケットが格好いい。

▼主人公が発狂するラストシーンを危険視した松竹が勝手にカット、怒った吉田喜重監督は辞表を叩きつけた、と曰く付きの本作。本編はいかに幕を閉じるのか。ずっと気になっていたのだが、結末からいってしまえば、彼は発狂はするのだ。そう見える。港の夜空に打ち上がる鮮やかな花火と、密航を失敗し吊し上げられた主人公の醜態のコントラスト。花火の観客と狂人の対比が強烈なのだが、皮肉にもこれは、歌手を夢みて脱出を試みた男のオンステージなのだ。▼観る前まで、河野典生の小説の映画化『黒い太陽』みたいな映画を想像していたのだが、大分違う。あの、音楽理論などには全く無知ながらひたすらビートに痺れのめり込む川地民夫のような青年は出てこない。アメリカに、音楽に対して憧れを希求する気持ち、果てない夢へ渇望だとかは『日本脱出』の主人公には余り感じないのだ。吉田監督は、運に見放され自滅していく男を突き放して見詰める。ひたすら泣き喚き散らかす彼に感情移入するのは難しい。まるで壊れた楽器のような彼の不協和音が観客の耳を打ち続ける。▼ドラム演奏がかなり格好いい待田京介を麻薬中毒で簡単に途中でフェイドアウトするのは惜しい。桑野みゆきは娼婦役には育ちの良さ、性格の良さが隠しきれず。でも、スタイルは抜群です。この二人、DVDジャケットにばっちりフューチャーされている。主役鈴木やすしを押し退けて。つまり、この映画の印象はそういうことなのだろう。▼成島東一郎のカメラは鮮烈な色彩感覚で効果でオリンピックに向かい浮かれる日本をシニカルに切り取る。日本脱出を試みる弱虫バンドマンは挑戦者ではなく、富の果実を得られない落伍者に見える。▼それにしても主人公はどうして発狂したのか。桑野みゆきも金も夢も消え去ってしまったからか。一大イベント東京オリンピックと孤独な狂人との断絶。その対比に吉田喜重の作家の焦点が定まっていることには間違いない。