見せない恐怖。
▼『トラ・トラ・トラ』の共同監督であったフライシャーを馬鹿にしていた黒沢明は御覧になっていないだろう本作、サスペンススリラーとして会心の出来を誇っていると思う。シンプルながらよく練られたストーリーは寸分の弛みもない。細部でのこだわりをみせるカメラワークの見事さは何遍でも味わいたくなる強度がある。 ▼『見えない恐怖』には『暗くなるまで待って』という偉大な先行作があるので、割りを食って損をしている感じがして残念である。邦題も地味だ。だが、それに対抗すべく磨きげられたフライシャーのサスペンスは切れ味鋭い。盲人ミア・ファローを野に放ち、血だらけ泥まみれで彷徨させるダイナミックさは、ヘップバーンの映画では到底望めなかったものだ。そして、何より死角を使った『見せない」恐怖のスリリングさは比類のないものだと思う。個人的に、観ていて具合が悪くなる感覚をひさしぶりに味わえた。観る者の呼吸の裏を突く、そんな計算された演出が見事だ。まさに恐怖に特化した点で純度の高いホラーの傑作である。