踊る阿呆。
▼ポップでブラックな異形の傑作『魚が出てきた日』は軍の機密物質紛失から端を発する狂乱を描く、まさに映画の地獄花だ。シニカルな熱狂に権力の無様な隠蔽体質は嘲笑われる。▼そんなドタドタ劇の終わりに待つのは、海に浮き上がった死んだ魚の群れ。主人公は終末を悟り、何も知らずにゴーゴーに没頭する大衆にまぎれ食の享楽に身をゆだねる。 マイケル・カコヤニス 監督が、脚本のほか衣装も担当したこの独特の世界観は、監督が同性愛者だったということでひどく納得いくのだ。▼静かな島を馬鹿騒ぎに一転させてしまう得体の知れない熱気。権力側がなぜ隠蔽するのか、それはこの熱気が怖いからだろう。踊る阿呆のアナーキズムに虐げられた監督の怨念がうっすら見える。▼アイデアの元となった墜落事故の半年後には本作の撮影に入ったという。凄い創作エネルギーだ。タイトルが示すところの全滅を目撃しながらも、主人公は空腹を満たすためひたすら喰う。彼にとってはもう、死や放射能のことなどどうでも良いのだ。喰うことには政治、道徳も立ち入れない。この野放図さ。案外大食いブームもそれとは無関係ではないかも知れない。