藤岡版伊達。

▼大昔、深夜枠トリミング版を見た時の印象は、暗く地味な映画だなというところだろうか。かつて本郷猛だった男、藤岡弘の醸し出すダークさにいまいち抵抗感があったのだ。無口なのはいいとしても、ほとんど何を考えているのかわからず、復讐の行動が湿っていて、巨大な組織に挑戦していても応援が出来ないのだ。▼今回DVDで見直すと、予想以上に最後まで楽しめた。カメラマン木村大作の構想に基づき新たにモノクロ処理がなされたオープニングを始め、リマスターによる美麗な映像によって初期のダリオ・アルジェントみたいな感覚の鮮やかな殺人美学の復讐劇に見える。ただそれはハードボイルドの面白さではないけど。▼言うまでもなく、原作は大藪春彦のハードボイルド犯罪小説なのだが、脱ぎっぷりのいい女優陣のギラギラとしたパラノイア演技の強烈さの前では主役の伊達邦彦=藤岡弘が霞んで見えてしまう。映画のなかに妙にへばりつく陰気な学生も邪魔なだけだ。これらが活劇に要らぬ暗い影を与えてまっている。かといって冷徹に彼らを処理していく藤岡弘は眉ひとつ動かすことすらない。だからドラマも生まれず、仇側のひ弱さ、復讐プランの平凡さによって物語をうねらせることもない。陰鬱で平坦な映画の印象は否めない。▼しかし、主人公伊達邦彦を闇堕ちしたヒーローとして描いて藤岡弘は、今見るとなかなかはまっているように思う。ビルドアップした肉体は大藪作品から抜け出たような説得力がある。藤岡弘のパーソナリティー、生真面目さがむしろ暗い炎としてきちんとフィルムに刻み込まれているのだ。令和の今、本郷猛の残像が完全に消え失せ、妄執に囚われたひとりの人間がここにいる。