ひとり二役。
▼ロストハイウェイの指すところは、永遠に高速道路を彷徨い続けるその孤独、といったところか。時間軸を飛び越え常識を蹴散らし支離滅裂を全く恐れない『ロストハイウェイ』はひょっとしたら最も映画的なのかも知れない。時空の歪みに迷い込み別人となりながらも、死んだパトリシア・アークエットの官能のイメージに再び取り憑かれ堕ちてゆくビル・プルマン。蘇生したパトリシアへの妄執。それはポルノという視覚の麻薬が脳髄を痺れさせ離れないことに似ている。その悪夢、行く先がみえない闇の迷い道を映画はひた走る。▼死んだ妻に瓜二つの女パトリシア・アークエットが、醸し出す『めまい』の残像。『キッスで殺せ』を彷彿とさせるタイトルバック。『まわり道』のようなあり得ない運命翻弄される音楽奏者など、フィルムノワールの記憶に彩られている。ビル・プルマンを襲うフラッシュバックとフラッシュフォワードの幻覚も『ポイントブランク』に通じるものがある。そう、この物語は死んでゆく男の幻影だ。▼ビル・プルマンがインターホンの謎の声を聞く開巻から、全て死刑になって死んでゆく彼の幻、夢だと思う。彼が変身するまでは、現実の記憶と彼の妄想が入り交じっているが、逆に変身後は現実的だ。その為かパトリシアが別人を二役をやっていると思い込まされる。しかし彼女な何故か死んだ妻と同一人物だと、元の姿に戻ったプルマンは知らされる。死んだ筈のパトリシアのひとり二役のひとり芝居。どうしてこんな話なのだろう。これはポルノに出演させられたパトリシアの復讐なのかもしれない。プルマンは、ポルノ業者とギャングを殺す。死んだパトリシアに変わって。ロバート・ブレイクはその復讐の水先案内人、死神に見える。パトリシアは死んだ。プルマンが殺した。だから最後に彼を拒絶したのだ。だがそれも全て夢まぼろしの話だ。プルマンも気付いたはずだ。でなければ自宅にインターホンに伝言を告げる必要はない。▼次回作『マルホランドドライブ』と同じというか、『マルホランドドライブ』がハリウッド女優版『ロストハイウェイ』だ。勿論女二人の愛が転生昇華する『マルホランドドライブ』の幸福感は、ここにはない。プルマンの別の顔は吸収される。ひとり二役のステージは幕を閉じた。彼の命の終わりだ。魂はひとり、あてどなくハイウェイを彷徨うするのみなのだ。