183cm確定(186cm関川慎二との並びより)。
▼松田優作主演2時間サスペンスの1本。堕ちてゆく男の姿をひたすら追う犯罪ドラマたが風変わりな作品で、後半の優作のとる行動など完全に観る者を置いてけぼりにさせる。そう、ラストひとり茫然自失とする夏木マリのように。▼この物語の主人公像は松田優作が演じ続けてきたキャラクターと何ら変わらない。狂ってゆく男の物語、そして死の美学だ。▼主人公尾形の転落は令嬢一色彩子との結婚を社長である父親から反対されたことから始まる。その理由は自らの出自が貧しかったから。差別と言っていい。今となるとそれは松田優作本人にも重なってしまう。尾形が野望に取り憑かれているのは、疎まれたからな。振り返ってみれば松田優作という役者に無意識に我々は野望の匂いを嗅ぎ付けていたのではないか。そんな気もするのだ。▼彼が生前出演予定だった『裏切りの明日』は貧乏ゆえに恋人に去られ道を踏み外した刑事の物語だ。本作にも通じる屈折した人間像にひかれたのは優作本人の出自や人生経験と無縁ではないように思える。『死の断崖』の尾形は確かに令嬢を愛していた。死なせたのも事故だ。たが彼は金を選ぶ。たとえ、気が狂うほどに悲しもうとも。▼後半、別荘での松田優作と監禁した夏木マリの間で行われるやり取りはなんとも異様である。「三人は無理だよ』もう殺せないと彼は言う。どうしていいかわからないと。彼は自分の出口を探しているのだ。意を決した夏木マリはペーパーナイフを手にする。刺される前にその刃に身体を押し付ける松田。ペーパーナイフは一色彩子のプレゼントであり、全ての計画の破綻の要因なのだ。死ぬには相応しい。これは死を賭けた、彼の『危険な遊戯』だ。▼そんな虚無の世界は『野獣死すべし』のように異常でも陰鬱でもなく、『陽炎座』のように鮮やかな極彩色に染められてもいない。工藤栄一監督と仙元誠三のカメラによる青の世界の中では忍び寄る冷たい死の感覚さえ美しい。車にもたれ掛かり最後の一服を燻らせる松田優作の静かな死の予感にも色気が漂う。