ふたりの疫病神。
▼きうちかずひろ監督の『JOKER』も最高だけど、こちらの『JOKER』も大傑作。久しぶりに観たけれど、引き込まれました。これは充たされない二人の男の最後の闘争を描くハードボイルドだ。▼レザージャケットにハンチングの渡部篤郎はヤクザには見えないけど、格好いい。このファッション、憧れました。渡部演じる男は、心臓の血管に爆弾を抱えたような病気を持つため激しい運動が出来ない。当然恋人片岡礼子との関係もストイックにならざる得ない。暴力社会に生きる渡部が彼女に向ける思いは肉感的ではなく、切ない。疫病神として母親から疎まれ殺した過去を持つ彼。愛されなかった男は、愛する者を思い切り抱きしめることすら出来ないのだ。▼もうひとりの疫病神、萩原健一は過去にしか希望を持たないような男である。ヤクザ組織から疎まれ、ひとり死んだ青山知可子の幻に癒される彼にとって、もう現実の社会はいる場所ではない。喪失感が永遠に充たされることはないと悟った彼は恐れ知らない無敵のジョーカーだ。▼殺された恋人の復讐に残されてた人生の全てを賭ける渡部篤郎。そのベレッタの銃口は異様なまでに冷静に標的をとらえ、容赦なく乾いている。いつ死ぬがわからない自分にとってもう他人の命などどうでもいいのだ。▼正直ガンエフェクトはマズルフラッシュが少なく、スタティックに撮る本作のアクションのスタイルだと物足りない。むしろこの映画の魅力は独特の儚さや虚無であり、暴力世界とのコントラストによってそれらは透明で無垢に輝くのだ。渡部篤郎が絶命昇天し崩れ落ちる、その瞬間の魂の飛翔感は素晴らしい。▼クライマックス渡部と萩原健一が共闘して暴れるのは、いまは亡き旧文芸坐である。令和の今観ると、あの名画座も時代に取り残された都市の疫病神のように見える。『JOKER 疫病神』の世界はもうになくなってしまっているのだ。萩原健一しかり、萩原流行、脚本家高田純も。主題歌を務めたミッシェルガンエレファントのチバもアベももういない。戦いを終えた池袋の夕焼けに「バードメン」が鳴り響き切なく胸が熱くなる。