コンプレックス。

▼グレン・フォードの好演が素晴らしい西部劇の傑作。90分に満たないコンパクトでタイトな緊迫の物語のなかに男の焦燥感、孤独が画面から滲み出でてくる。▼序盤のダンス会場で、近所の青年が圧倒的な身体能力で驚異的アクロバットを見せつけるシーンがある。本筋にはまるで関係なくいらないように思えるが、これが実は重要な起爆剤だったりするのだ。青年に向けられた称賛に、フォードは羨望の眼差しを向け嫉妬したのだ。人知れず抜き射ちの驚異的能力を持っている彼。見せびらかしたい虚栄心を翌日酒の力を借りて彼は開放させる。だが素面に戻ればひたすら後悔に苦しむ。父親の仇討ちを果たせなかった負い目。射たれる恐怖から逃げた彼のコンプレックスだ。それこそが彼の自己肯定感を歪めているのかも知れない。▼フォードの街は保安官を置かない平和な街だが、そこに無法者が逃げ込んでくる。その中に速射ちナンバーワンに執着する男がいて、フォードの腕前を聞きつけ決闘を申し込む。この無法者は妻が寝とられて以来、一番でないと気がすまないのだと、彼の仲間は指摘する。これもコンプレックスの歪みだろう。誰が一番速く射てるか、そこに意味などないのだ。フォードはその無意味さに気付いている。拳銃を捨て街を出ようと決めたのもそれだと思う。▼結末は言わずが花だろうだけれども、爽やかな感動が心に残る。フォードは速射ち以外は全く普通の人間である。そんな彼が市民の為に命を賭けて決闘に挑む。市民たちのある計らいによって彼の懸念であった暴力の連鎖を断ち切られる。それはフォードへの誠実さへのリスペクトに他ならない。彼はコンプレックスから開放されたのだ。