ダンディズム。

▼軽薄な響きを持つ邦題だが、なかなかどうして、いいタイトルだと思う。中身も007のどの作品よりシリアスかつ硬派であり、全編が冷徹なトーンで貫かれている。ローレンス・ハーベイのダンディズム-服装、立ち振舞いはいわばダブルスパイの隠れ蓑なのだが、ラスト一騎討ちに向かうに至って彼は自らの死を演出してみせる。これが殺しのダンディーだ。▼タイトルバックで操り人形がスパイたちの運命を暗示される通り、実は最初からローレンス・ハーベイの正体は発覚していたのだ。諜報部の任務の全てが罠だったと知り愕然としたまま絶望の帰路につくハーベイ。彼は滑走路に乗り込んでくる一台車を見つけ思わず近寄る。失意のあまり瞬間ミア・ファーローの錯覚を見たのだ。実際に運転席にいるのは敵視し合っていたトム・コートネイ。その眼は裏切られた殺意に燃えている。コートネイはハーベイの正体を知らなかった。二人は共に欺かれた者である。ハーベイがあえて戦って死ぬことを選んだのは、組織に捨てられた人形が操られることを拒否したと思いたい。 ▼ヒロインのミア・ファーローがストーリーに絡まないわりに、都合よく現れ作品の緊密さを壊してはいる。しかし、腹黒い国家組織の策謀とは全く無縁な彼女はハーベイにとってオアシスなのだ。ミアのピチピチの若さのあまり、かなり不釣り合いな年の差カップルではあるが。▼ほとんどの登場人物が嘘をつき騙し合う裏切りのドラマなので、全体図が見えてこない初見ではかなり振り回されてしまう。再見すればハーベイの東側への脱出計画が度々潰されていることなど全て謀略なのがはっきり分かる。伊達男のスパイ像、ステッキ銃なども『キングズマン』にそのまま直結する、更なる評価が待たれるスパイ映画の傑作だと思う。