炎の女。
▼山口淑子演じる愛に燃えるヒロインの造形の鮮烈さは、今なお強烈である。帝国陸軍を敵に回してでも愛を貫く、こんな映画が終戦から五年後GHQの反軍国主義映画制作の目論見のもと産み出されたのだ。▼愛が全てという女の情熱に池部良の兵隊は殉じるように見える。純粋がゆえに恐ろしくもある女の性に、男は我が身を滅ぼして答えなければならないのか。女難を抱えた谷口千吉監督のその後の運命さえ感じ、感慨深い。▼クライマックス脱走した池部良と山口淑子を小沢栄太郎の機関銃掃射が襲うクロスカッティングの緊迫感は圧巻である。熱砂にまみれ絶命する二人の壮絶な悲愴美、その無情感は世界レベルだろう。▼それにしてもこの炎の情熱を持つヒロインである。愛の表現も当時としてはかなり肉感的であると思う。戦前戦中ではあり得ない全く新しいタイプの女性像-能動的な愛の狩人に、谷口千吉や黒沢明ら戦後日本映画人たちは、命を吹き込んだのだ。