北部劇。
▼高倉健+深作欣二版は、その昔観たがアクション映画を期待していたので、拍子抜けした記憶が残っている。▼今回、谷口千吉+黒沢明脚本による『ジャコ萬と鉄』を観て思うのは「ジャコ萬VS鉄」の映画ではないということだ。二人は対立し喧嘩しても、鰊漁に協力し和解する。これは引き上げのジャコ萬と戦場帰りの鉄の二人の不器用な男の戦後の再出発までの物語だ。▼犬橇の豪快な追跡、荒れ狂う北海の自然の力強い描写など、脚本を書いた谷口と黒沢の二人は現代日本で西部劇映画、謂わば北部劇を作ろうとしたのではないだろうか 。本作の脚本はそのまま東映深作版に流用された。志向の一部は高倉健の網走番外地シリーズへと流れていったのだ。▼高倉健は、谷口版を観て夜も眠れないほど興奮したという。それはやはり鉄を演じた三船敏郎だろうか。ラストシーン、愛しい女に声すらかけず北国を去る三船の後ろ姿をとらえたロングショットは見事だ。不器用ゆえにストイックにならざるを得ない主人公は身震いするほど格好いい。