満足出来やしない。
▼同盟関係にある二つギャングと警察の蜜月は、アスカの乱入でその均衡を崩す。『赤い収穫』を下敷きに、麻薬を巡る抗争描く本作、改めて観ると、大友克洋『AKIRA』のビジュアルの影響も大きいことに気付く。アスカの赤いジャンパー、武田久美子扮する親友との一騎討ち、不良たちの佇まいなど、近未来的世界のインスピレーションはあのアニメに負うところが大きいように見える。▼武田久美子が街を乗っ取るべくアスカを利用する構図が隠れていて、真の主役なのかも知れない。街の浄化を目的とするなら、もっと描けば話が広がったと思う。タンカ切ってツッパッてる感じは少し無理も感じるけど、透き通った歌声と見た目のアンバランス感はなかなか良い。▼つみきみほの殺陣は今観るとスピード感があって、蹴り技が弱いものの本当に良く頑張っていると思う。それに比べると男の方は、つみきみほや武田久美子の行動をただ妨害するだけにしか見えない。男にしろ女にしろ登場人物の思想がいまいち不明瞭なので物語の見通しが悪い。本当の敵はヒバリという女カリスマであるはずなのだが、そこには落とし前はつけずに映画は終わってしまう。▼もうひとつの和製女版『赤い収穫』の『女番長野良猫ロック』の、男どもを蹴散らす痛快さを求めるには女カリスマの存在が邪魔なような気がする。しかし原作にもその様な人物が登場するそうだから仕方ない。▼公開当時、ローリング・ストーンズ「サティスファクション」と同じ位、ポスターのロングコートのつみきみほのシャープな出で立ちに痺れた。ここに立ち昇るハードボイルド感覚、このストイックな雰囲気を映像化して欲しかったという残念な思いは今回も残った。▼しかし、数日経って思い返してみると、ヒバリが微笑むラストこそ評価すべきかも知れないと思えてきたのだ。革コートを羽織って街をゆくアスカに 、闘いの予感はなく、ひとりぼっちのさすらいが匂うだけだ。落とし前どころではない、彼女の完全敗北なのだ。全てを手に入れたヒバリがこちらに向かって、独り笑みを浮かべ去ってゆくバッドエンド。ネオンに照らされた彼女の街に流れる「サティスファクション」。これが主題歌なのは、格好いいからだけではない。「満足出来やしない」と、この歌詞に崔洋一監督は権力への皮肉も確かに込めたのだと思う。誰が最後に笑ったか、ハードボイルドな運命論がこの映画にきっちり描かれていたのだ。