熱情とは。

▼日本映画離れしたヤクザ映画とは思えないぼどスタイリッシュなポスターデザインと素晴らしいタイトル。工藤栄一監督の結晶を予感させる完璧なキャスティングとスタッフの布陣に公開当時期待は高鳴ったものだ。▼ただ実際はその期待値に及ばず、この映画は格好つけ過ぎ気取り過ぎで、ひねったプロットがかえって葛藤のドラマを阻害している感じがして居心地が悪い。そんな鑑賞記憶を思い出しながら今回の再見となった。▼初見時ステーキ肉を切るオープニングに不穏な予兆が感じられたドキッとしたものだ。この麻生祐未が夕食の準備をするシーン、しかもイタリアンを料理しているところからもこの映画が何か新しいことをやってくれそうな期待は高まる。しかし、その後陣内孝則との会合シーンでの麻生祐未の激昂振りに違和感を憶えたのだ。タイトルにある熱情。それはもっと秘めたる人の思いではなかったのか。ポスターからはそう感じられたのだ。だがこの映画の熱情は外に放出される、過剰に。▼『さらば愛しのやくざ』ではタイトルバックに夜空にジョン・レノンが高らかに響いたのに対し、本作では陣内の刑務所での生活が点描されるのだがあまりにも新鮮味がない。柳葉敏郎射殺シーンの会話などはとてもいいのだが、独特の甘さはある割に全体的には異色の青春ヤクザ映画の枠を出ることはない。『ヨコハマBJブルース』『野獣刑事』のような諦感からくる凄みみたいなものがないのだ。観たかったのはヤクザ映画ではなく、ハードボイルド映画だったのに。▼それでも柳葉との線路上でのやりとりのシーン、グリーンを基調とした映像の美しさは素晴らしい。柔らかな緑の世界に点灯する赤ランプ、そして闇も影も溶け込む漆黒とのコントラストは、他の映画ではなかなか観れない。撮影は全編実に丁寧に行われている。それ故にこの映画に展開されるドラマそのものが納得出来ない、否はっきり言って嫌いなのだ。▼同じく野沢尚脚本の『その男凶暴につき』の川上麻衣子にしても、本作の麻生祐未にしても薄幸なヒロインだからといってひどいというか、心の病を便利に使う作劇は受け入れ難い。そこからくるこの映画の心理ミステリー構造の味つけが邪魔で仕方ない。普通にナイーブで不器用な男女の物語ではいけないのだろうか。美しい嘘作りというストーリーも嘘ゆえに薄っぺらく白々しい。語るべきはもっとストレートなものはず。愛するという人の内に宿る信念。それこそが熱情なのではないだろか。