賭ける。
▼『人間に賭けるな』。すごいいい題名で、惹き付けられる。だが何故不定詞のだろうか。▼競輪というスポーツ賭博を背景に描かれる本作はかなり異色作ではあるが、車券映画という予想を見事に裏切る傑作だと思う。ここに出てくる者にとって賭け事は金儲けのお遊びではなく、人生を賭けた戦いなのだ。眼の色を変え燃え上がる男女の異様な情熱。そこに切り込む視点は実にシャープだ。▼主演の渡辺美佐子がふてぶてしくも実に妖艶なやくざの妻を熱演する。貫禄を漂よわせる美しさだ。彼女の中の秘めたる純粋さが狂気の色をおびながらきらめく様は圧巻である。▼渡辺美佐子の賭けも、その他の者の賭けも最終的には崩壊を迎える。希望が音を立てて破断され、訪れるのは絶望的虚無の世界だ。『人間に賭けるな』という重い戒めが、日本映画離れした力強さで無の荒野に広がってゆく。