オブセッション=執着。
▼『愛のメモリー』は確かに好きな映画だけど、他人にはなんとなく勧めづらい。内容的にグロテスクな印象があるし、この猿ぐつわのジュヌヴィエーヴ・ビュジョルドのイメージが強烈だから。どこか淫靡な色気を感じてしまうのは私だけではあるまい。でも、自分にとってのこの映画の魅力の全ては彼女なのだ。▼とはいえ、数年前一度観たきりなのは、気が重いというか、話の展開にどんよりとした印象があるからである。クリフ・ロバートソンとイタリアで恋に落ちるビュジョルドの関係がバレバレで映画の弱点のようにも思える。今回見直すにあたり、景気づけに特典映像の見ると『愛のメモリー』は本来はもっと危険で、過去・現代・未来につながる長大の映画だったというのだ。俄然、興味が湧いてくる。▼ビュジョルドの秘密を知った後で観る『愛のメモリー』。これが実に面白い。作り手としては彼女とクリフが他人ではないことなど必死に隠しておくことではないのだ。むしろ関係性を知って観たほうがこの映画の全てが味わえる。最後の一線をギリギリかい潜るスリリングな愛の罠こそ本作の肝なのだ。▼ビュジョルドは母親の復讐に取り憑かれ、クリフは妻の面影に執着する。『愛のメモリー』のタイトルでは間違いではないにしても綺麗すぎて適切ではない。フィルムノワールに系譜に属するため『オブセッション=執着』こそふさわしい。これだとラストのぐるぐる廻るカメラワークも愛憎に執着して自らを縛っていた縄がくるくるほぐれていく意味だとはっきりわかる。真実を確信するクリフのラストの笑顔が逆転ウルトラC級のハッピーエンドであることに今回初めて気がつき、不意をつかれて泣けてしまったほどだ。▼本作の下敷きとなった『めまい』が男の深層心理に訴えるからといって、当てはめて語るのはかなり危険である。デ・パルマとしてはもっと直接的関係を描きたかったそうだが、懸命にも避けられ、この映画の品格は保たれたのだと思う。紙一重ゆえにロマンチックなのであり、現実ではあり得ない夢想だからこそ危険なほど、この物語は美しい。