死ねない男。

以前観たときよりも、格段に面白かった。昨今の映像表現への反発もあってか、とても映画らしい作品だと思えた。中川信夫監督は16ミリフィルムカメラの機動力をあえて封じ、レンズを静止させる。とらえるべきは、見えざるもの。それは幽霊ではなく人に生まれながら絡みつく業なのだ。
1ショット1カットすら無駄なく積み重ねられた映像美の素晴らしさが、現在では全く話題にならないのは残念に思う。ここには往年の傑作『東海道四谷怪談』『地獄』の絢爛たる魔界を描いたケレンはない。パッと見、地味な印象があるのは拭えない。だが、リアルに抑制された構図は美しくも時に刃先のような鋭さがある。され気ないくも輪廻の逞しさをたたえた自然描写は、心象風景として深く刻まれるのだ。一切の気取りがないストイックで自然主義なスタイルは、いつしかサイレント映画を思い出させるほどだ。描写は万物の芯を捕らえたように実に力強い。中川信夫監督は、物語の終わりに宮下順子に語らせず、女の性の悲劇をその表情に託す。
本作は幽霊話ではない。小平次は何度か死の淵まで立たされながらも、愛する女への執着でその都度蘇生するのだ。死ねない人間である。幼なじみの女は、知らず知らずのうちに男を狂わせ破滅させる。彼女の亭主は、暴力男で嫉妬深く女を手放さない。だが、見方を変えれば彼もまた女にとりつかれているようにも見える。本作は、僅か三人の登場人物のなかで絡まってほどけない業の物語なのだ。ラスト、宮下順子は執着に変わってしまった愛の終わりを見届ける。だがそれは彼女がかけた優しさ、情が全ての元凶のかも知れない。生きていることすら恐ろしいその定めに、人はなす術はないのだ。