二重人格。
ボストンの街は殺人鬼の引き起こす恐怖に震え上がり、その震動によって都市の暗部が浮かび上がる。『絞殺魔』の前半は分割画面でパニックがパノラマ的に描かれる。決死の警察の捜査、それを嘲笑うような連続殺人も同時に映し出され、混沌をきわめる。そして、丁度真ん中辺り一時間たった時、その男トニー・カーティスは姿を表す。後半は彼の行動、心理に焦点が向けられる。折り半的作劇で、ドキュメンタリータッチの捜査映画は、サイコキラーの物語に変貌する。トニー・カーティスの中の分裂した二つの人格がひとりの人間のひとつの人格となる時映画は終わる。男のパニック、混沌は終わったのだ。 
 クライマックス、一切の装飾を廃し、長回しで密室のトニー・カーティスにひたすらフォーカスし、彼の人格が変容していく様をシームレスに描く。二重人格に明確な境目はない。いつの間にか、知らぬ間に移行している。しかし、彼はモンスターとして断罪されない。この映画では精神病は治るものとして描かれている。中盤少し手前で全く無関係な精神薄弱者が延々と意味不明な話を続ける。ヘンリー・フォンダは、ただ彼を事務的に病院に送る手配を命令する。別人格を認識したトニー・カーティスも、直ったのだ。と同時に死んだのだ。自分が知らぬ間に殺人鬼であることを知り精神は崩壊ぜざるをえない。白い部屋の片隅、トニー・カーティスはひとり佇む。全てが消え去り無の世界に溶けていくように。