ル・ジタン=ジプシー。

ジョゼ・ジョヴァンニの映画は任侠映画とも評されるが、むしろ股旅ものに近い。偶然にも彼の著作には邦題を「ひとり狼」とする、村上元三原作市川雷蔵主演映画と同名タイトルのものもある。アラン・ドロンが革ジャン髭面のワイルドなアウトローを演じる『ル・ジタン』と律儀なまでに折り目正しい渡世人『ひとり狼』の市川雷蔵にはどこか通ずるものがある。村上の師匠である長谷川伸の世界観、義理という感覚が本作で重要な意味を持って描かれるのだ。
『ル・ジタン』はロマの血を引くジタンと呼ばれる男の飽くなき抵抗の物語だ。オープニングで映し出されるトレーラーハウスの群れ。社会の片隅で生きるロマの人々だ。それを蔑む国家に対して牙を剥く彼の姿は強盗というより現代の義賊として描かれる。一方ポール・ムーリス演じるヤンは、初老のプロの金庫破りで 高級マンション暮らしなのだが、トラブルもあって旅に出る。その出先でジタンはけん玉に興じるヤンを何気なく見かける。それ以降、この二人は言葉を交わすでもなく行く先々同じ街に偶然出没する。奇妙な因縁の繋がりは、ヤンを共犯のとばっちりで勾留させ、ジタンにとって借りをつくる。帰宅したヤンを訪ねるジタン。面と向かうのは始めての二人。謝罪を受けたヤンは、荒んで疲れたようなジタンに、風呂でも入っていけという。ひとっ風呂浴びたジタンは、ヤンの勧めで一晩泊めて貰い、明朝速やかに部屋を出る。接点がなかった人間が義理という思いやりが絡んで結びつく。その交流は宿命的なまでに儚い。
劇中流れる音楽も興味深い。ロマの音楽は、サラサーテの「ツィゴイネルワイゼン」に影響を与えたそうだ。そう考えてみると映画『ツィゴイネルワイゼン』でジプシーと称されていた原田芳雄も髭面長髪であり、本作のアラン・ドロンにインスピレーションを得たのかも知れない。 というか、ジタンのキャラクターが原田芳雄のイメージにぴたりと合う。常にマイノリティ側に立つその姿勢が重なるのだ。