ビバップ=喧嘩
リアル志向の『ビー・バップ』という方向なので、全編フルコンタクトの暴力が展開するものと思っていたのだが 、壮絶な殴り合いの見せ場はクライマックスぐらいで、アクション映画として期待すると肩透かしを喰らう。きうちかずひろ監督からすれば、実際の喧嘩は一発で終わるくらい地味なのであり、格好いいものではないのだ。よって映画的な見栄えのする格闘乱闘は排除され、徹底的に殺伐としたトーンがファーストシーンから漂う。あくまで『ビー・バップ』であるため刺殺、撲殺などの重犯罪行為 には描かないが、『カルロス』から引き続く仙元誠三の冷たく切り取られた画からはひりつくような剣呑な空気が立ち込めるのだ。それは肉体の暴力以上に、相手を威嚇、罵倒する言葉からも発せられている。言葉の喧嘩という点で本作は『アウトレイジ』に遥か先行する。不良の文体、思考の言葉での殴り合い、怒鳴り合いこそ、むしろ『ビー・バップ』の本当の魅力のような気がする。
 作中、抗争の勢力図の塗り替えは、喧嘩ではなく政治的駆け引きで行われ、一匹狼的なヒロシはそれを嫌悪し背を向けるが、ヒロシは飲み込まれてしまう。自己を見失ったトオルだが、ヒロシの荒療治によって再生する。拳によって己を確認するのだ。極端ではあるが、この硬派の思想は凶暴な仇役にも共有される重要なものなのだ。抗争はいわば兵隊間でのみ行われ、人を殺めることはしない。女性も攻撃対象ではない。不良たちにとってその硬派の思想こそ矜持であり、きうちかずひろ監督にとってのハードボイルド版『ビー・バップ』の核と言えるものなのだ。