広島弁のブラジリアン・ギャング。
 ベレッタ92Fのダブルカラムマガジンに9ミリパラベラムを15個詰め込み、装填してチャンバーに一発送り込む。再びマガジンを引き出し弾薬を1つ追加してやる。以上の銃器のディテールをワンカットで描写する。いきなりファーストシーンで。ベレッタを15+1連発にするあたりはこの映画ぐらいでしか見たことがない。きうちかずひろ監督により銃弾の重さ、着弾の衝撃、銃撃場面の暴力表現のリアルさが追及され、その成果で画面の端々まで凄みがみなぎっている。監督は『仁義なき戦い』ファンだが、手持ちカメラを振り回したりせず、仙元誠三の冷徹なカメラワークで暴力を切り取ってみせた。カルロスたちが喋るスペイン語混じりの広島弁が特異なブラジリアンギャングを鮮やかに描き出す。リスペクトしてやまない映画たちのエキスがごった煮になりながら『カルロス』はオリジナルな面白さを獲得している。全編、緻密な画ずくりに漂う剣呑な空気感は尋常ではない。ブラジル時代から臨戦態勢のカルロスは、規律のあるヤクザと違って、いつだってためらいなく引き金を引けるのだ。凶暴さに恐れをなしたヤクザ側はプロの殺し屋チャック・ウィルソンを使い殲滅を図る。機械的精密さでカルロス一味を血祭りに上げていく殺し屋。カルロスとの対決の時が迫る。発表当時主演のカルロス役の竹中直人 以上に話題になったのがこのチャック・ウィルソンのキャスティングだ。ターミネーターのシュワルツェネッガーか、と言われてしまいそうだが、チャックの殺し屋としての隙のない振る舞いは、野性的なカルロスと対称的なキャラクターに描かれ説得力がある。この作品の特筆すべき点は、その殺し屋がカルロスに射殺されるまでのシーンの、間を取った長回しの緊張感漲る演出だ。ガンエフェクトを際立たせる編集の見事さもあって日本アクション映画史に残る名場面となった。ただ、不満も無くは無い。覆面姿のカルロス一味が白昼ヤクザ集団を襲撃するシーンは、『ゴッドファーザー』のソニー暗殺ばりに銃撃の雨を描いて欲しかった。片桐竜次の射殺シーンもやっぱりマズルフラッシュが不足している。いずれの場合も発砲時にカットが風景に入れ替わり、ギャングたちのアナーキーな暴力性の衝撃が減じている。単なる予算の問題かもしれない。ただ、高校生の初見時から気になっているので敢えて記してみた。