侍たちへの鎮魂歌。
 この映画は時代劇ではない。『七人の侍』は暴力が支配する混乱の世を舞台にした戦争映画である。武装抵抗の物語だ。元々、侍=兵士、復員兵であり、農民たちがしたたかで狡い者たちに描かれているのも、戦後の混乱期に米や食料を渡さず貯め込んだ、食い物の恨みであるのはよく知られている。光と影のコントラストの強いモノクロ芸術の鮮烈さは究極なまで高められている。パンフォーカス撮影でとえられた奥行きのある華麗な構図は人間同士のぶつかり合いを白日の元にさらけだすダイナミズムを産む。この叙事詩には無駄なショットすら一つもないのだ。命を賭けた戦いの末平和を掴み取るたくましい農民。生き残った、戦いしか知らない者たち。彼らの友、名もなき英雄は土の中で眠りについた。侍=黒澤明は何を思ったか。明日に願いを賭け生きる人間の姿に、武士道や身分制度なんて理屈を越えて、生命の力強さを讃えざるえないはずだ 。平和は侍が滅んだ未来でこそ訪れるのではないか。敗戦後の焼け野原を知る者で、そんな夢想的な理想を心に描かなかった方がどうかしているだろう。