極彩色の殺人美学。
いきなりのドラム演奏からこの現代怪奇劇場は幕を開ける。ドラム乱打、心臓の鼓動、小さな虫、変なお面。冒頭からなにやら不安を煽る描写で心を鷲掴みされる。姿を見せない殺人鬼。得体の知れない謎。不穏な空気 が全編に漂っている。建物、衣装、美術品、ミムジー・ファーマー、あらゆる物が美しいのだがそのどれも妖しいひかりを放つ。『サスペリア2』共々アルジェント監督の色彩感覚、美意識は神がかりなところさえ感じる。映像美はほとんど完成直前まで研ぎ澄まされていて、その 魅せる演出美学は、驚異的なものだ。本作も『サスペリア2』も決定的な「画」で映画の全て肯定させる力がある。観客は優麗な音楽が流れながらの壮絶なラストは忘れがたい映像体験ができるだろう。そして、犯人が神=監督によって処刑されるにいたって興奮している自分にも気付くはずだ。この高揚感。よくある勧善懲悪とは異なる種類のものだ。どこか危険な感覚がある。優れた芸術に触れたらもう過去の自分には戻れない。あの経験を芸術的殺人によって成し遂げた稀有な例だろう。