目玉焼きとパイソン。
 『Z』『戒厳令』『告白』ブルーレイ化願い、鑑賞。アラン・コルノー監督。愛する女を殺された、孤独な刑事イヴ・モンタン。無実の殺人嫌疑が、徐々に彼を追いつめていく。登場人物がコインの表裏のように各々違う顔を見せ展開する犯罪劇。家庭的な目玉焼き作りと無機質な弾薬のハンドロードが朝のルーティンとしてカットバックされる。朝飯とマグナム。本来相容れないものが同時に語られ、一人の人間に流れ込む。この映画の象徴的シーンといえる。有能だが一人の女に破滅的なまでにのめり込む刑事。真実を語らず男を翻弄させる女。その女を夫の愛人として公然と認めている、シモーヌ・シニョレ。殺人犯の警察所長は友人で同僚の刑事に罪を擦り付けようとしながら抜き撃ちの瞬間の隙をつかれ射殺される。各々が自ら掘った落とし穴に引き摺り込まれていく。目撃者証言を欺くため自らの顔を焼くモンタン。異様で滑稽ですらあるが、逆説的にナルシシズムの狂気さえ漂う。愛銃パイソンだけが頼りの男の自棄的な行為が逆に新たな英雄を生み出す皮肉。破滅へいざなう自己の狂気を描いて現代のフィルムノワールに通じる傑作といえる。しっとりと暗い艶のある画調も素晴らしい